《MUMEI》
磔 6
千香は、服を着て車に乗った。小田切はすいている道路を快走していく。

「千香」

「ん?」

「磔にされてる状態で暴走族に囲まれた時は、スリル満点だっただろ?」

「バカ。スリルじゃないよ。恐怖でしかないよ。泣いてたの見たでしょ。怖くて泣いてたんだから」

「怖かった?」

「当たり前でしょ」

千香はムッとする。ムッとした横顔もかわいい。

「回されちゃうと思った?」

「それはダメよ絶対」千香は弱気な顔をすると、胸に手を当てた。「男の人にはわかってほしい。女は回されたら本当に人生終わりだから」

「終わっちゃう?」

「終わっちゃうよ。絶対それだけはしちゃダメでしょう。やられたらたまらないわ」

ホテルの前を通るたびに、千香は緊張した。密室に連れ込まれたら強気に出れない。脅されたら従ってしまう。脅しだけでなく、気持ちいいい目に遭わされたら、情けないけど弱い。

しかし、小田切はホテルを何度も通り過ぎていく。千香は神妙にしていた。

やがて市街地に出る。小田切は急に車を止めた。

「え?」

「ここでいいかな」

「ここって?」

見ると、駅だ。千香は驚きの眼で小田切を見つめた。

「嘘・・・」

「駅じゃダメ? 自宅まで送ろうか」

「いえ」千香は尊敬の眼差しで小田切を見た。「あの、帰ってもいいんですか?」

「君はいい子だから、解放してあげよう」

まだ半信半疑だ。何か罠があるのかと疑ってしまう。

「まあ、オレも十分楽しんだからな」

確かにたっぷりかわいがられてしまった気もする。

「あたし、小田切さんを誤解していたかもしれません」

「誤解?」

「悪い人だと」

「オレは紳士だよ」小田切は笑った。

千香は、唇を甘く噛むと、小田切を優しい目で見つめた。

「いろいろと、ありがとうございました」

「お礼はおかしいだろ」小田切は笑う。「あそこまで酷い目に遭わされて」

「いえ。貴重な経験をしました」

「そっか」

小田切は、情熱的な眼差しで千香を見つめると、囁いた。

「もしもまた、ハードなSMプレイがしたくなったら、連絡して」

千香はおなかに手を当てると、それには答えずに、シートベルトを外した。

「じゃあ、帰ります」

「元気で」

「はい、小田切さんも」

千香は車を下りた。どうせ、またSMホテルにでも連れて行かれると思っていただけに、解放してくれたのは凄く嬉しかった。彼女はニコニコした顔で振り向くと、両手を振った。

小田切は苦笑すると、車の中で一人、呟いた。

「両手でバイバイはないだろう。そういう仕草が男を誤解させるんだよ」

千香の姿はもう見えない。小田切は、千香の美しい裸体を思い起こして笑みを浮かべると、車を走らせた。



END

前へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫