《MUMEI》 異世界生活始めました。20××年8月某日。長野県某所。 ミンミンミン… 「あぁー…」 ミンミンミンミンミン… 「あぁー」 ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン 「あぁー!もー!鬱陶しい!!ただでさえ暑いのに!!お前達の声を聞くと!!!余計に!!!暑い!!!長野県は避暑地じゃなかったのかよ!!暑いじゃないか!!全然避けられてないじゃないか!!暑さどストライクじゃないか!!」 避暑地とは言え、8月の日中ともなれば暑くないはずもなく、ジリジリとした暑さは容赦なくクーラー未実装の8畳間を侵食する。 「…僕でこんだけ暑いんだ。お前はもっと暑いんだろうな…さんま?」 「にゃー…」 高温の8畳間で愛猫のさんまに話しかけるこの青年は、松下 幹弘22歳。容姿平凡、運動能力下の上、頭脳平凡、職業フリーター、趣味ゲームと妄想。この物語の主人公である。 「あー、こんな時に暑さ無効にする魔法とか使えればなぁ…」 ガチャ! 勢い良くドアが開くと長めの黒髪を後ろで一つに束ねた女性が入ってきた。 「ミッキー!いつまで寝てるの!?もう昼だよ!?修行の時間だよ!」 女性は布団に大の字になっている幹弘に向かって声を投げる。 「うるさいなぁ。この暑さの中で過ごしている時点でもう苦行じゃないか。」 シャツの襟元をパタパタと仰ぎながら幹弘が返す。 「もう…だらしないなぁ…」 ふぅ、とため息を一つ吐くと女性は幹弘に手をかざした。 「氷の精霊よ。我の求めに応じ、汝の奇跡(ちから)を我に与え給え。快涼の衣!」 女性が詠唱を終えると、かざした手から冷気が走り、幹弘の身体を包む。徐々に身体の火照りが引き、快適な温度に……… 「なんてなー、ないないない。こう暑いと妄想も捗らないな…女性に名前つけ忘れた。そもそも、家ドアじゃないしな。襖だしな。」 自身の妄想にツッコミを入れる何とも哀れな22歳である。 |
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