《MUMEI》
六月▽日(雨)
冷凍庫から作りおきしておいた餃子を取り出す。凍ったままフライパンに一つずつ丸く広げて、水を入れる。蓋をして蒸し焼きにしたら、仕上げに胡麻油を少々振り掛ける。焦げ目を上に、皿に返して食卓へ。短期連載の仕事は終了した。けれど三毛は来ない。多分、僕の所為なのだろう。どうせ食べないのなら、大蒜を入れてしまっても良かったのだ。未来を透かし見る能力があったなら、きっとそうしていた。ポン酢にラー油、いみじくも空しい妄想を添加して、第三のビールと咀嚼しつつ、刺激の物足りなさに後悔の念を募らせる。餃子の具を包んだあの夜、僕がとるべき行為で正解だったのは何だったのだろう。現状の結果から言って不正解だったには違いない。改めて不甲斐ないヘタレっぷりを披露しただけであった。不器用ね。三毛は確かに耳元で言ったのだ。僕の歪な後頭部をその両手で抱きしめながら。あなたって本当に。幻聴がしたような気になって首筋が震える。抑えが効かなくなって、我慢できずに行為に及んだ。酔いが回るのが早過ぎやしないか? 本気で最低だ。僕はたったのひと言を、三毛に告げれば良かったのだ。胸に抱いた熱を発する有機物を手放してはならなかった。永遠なんて存在しないのだとしても。世の理を僕は知っていたはずだった。しかし、譲れないものはある。馬鹿な男にも意地がある。恐らく世間様一般の幸せなんてものは簡単には手に入らないだろう。だがしかし、敢えて言おう。つまり、これは僕と三毛との勝負であると。酔っていないか? 酔っているに決まっている。冷蔵庫からアルコール飲料を次々に取り出して、一気に呷った後の記憶はない。

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