《MUMEI》

滑り出したのは双子の玉子だった。最初、フライパンに割ったのは普通の玉子。眠ったのは朝方で、目が覚めたのは昼近くになってしまっていた。外ではまだ小雨が降っていて薄暗い。昨日深夜に降り始めた雨は相当激しかったようだ。室内には香辛料の香りが漂っている。無糖ヨーグルトをグラスに入れて、百円ショップで見つけたミニサイズのかき混ぜ器で滑らかになるまでかき混ぜる。はちみつをスプーン一杯。滑らかになるまでかき混ぜる。レモンの絞り汁を2、3滴。滑らかになるまでかき混ぜる。最後に牛乳を入れて、滑らかになるまでかき混ぜる。都度、滑らかになるまでかき混ぜる。繰り返し。バターミルクというそうだが、バターの要素はどこにあるのだろう。温め直したお袋カレーは勿論、二日目カレーだ。勝てる者がいるだろうか、二日目カレーの誘惑に。倒置法。やっぱり、そこは、いや、いるまい。目前の三毛を見ればわかる。一本とまではいかないが、僕は有効を取ったのじゃあないだろうか。双子の目玉焼きをわざと生き別れにして二日目カレーの上にのせた。半熟なので慎重に一皿に一つずつ。残った一人っ子の目玉焼きは黙って冷蔵庫に片付ける。結局のところ僕は大事な一言を口にしていないが、三毛だって口にしていないのだからお互い様だ。でも、朝、起き出した寝床に三毛がいたのは初めてだったのだ。譲歩なのか気紛れなのか、単に起きることができなかったのか。相変わらす冷え性の僕は、何時もより暖かい布団で目が覚めて、一瞬戸惑ったのだが少しだけ幸せだった。もうしばらく、三毛は僕の部屋で晩飯にありつくことにしたようだ。未だに、勝負は続行されている。

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