《MUMEI》
埜嶋雪美。
埜嶋さんは誰もいない場所を求め、いきなり教室を出た。
このまま逃げてしまおうか、とも考えたけど流石にやめておこう。
確実に怒られる。
ため息を吐き、緋門に「じゃね」と挨拶をしてから埜嶋さんの後を追った。



埜嶋さんがようやく立ち止まったその場所は、屋上だった。
「………ここって立ち入り禁止では?」
「生徒会室の鍵を取りに行ったついでに」
ポケットから屋上の鍵をちゃりんと取り出す。くすねてきたんだね。
「じゃあ、本題に入りましょうか」
埜嶋さんが腰に手をあて、言う。
………………まぁ、内容は知っているけど。
「不思研を辞めるつもりはないよ」
「………新斗くんから聞いたの?」
「いんや、君と新斗が話してるところ聞いちゃった。ごめんね」
「………盗み聞きするなんて、最低な人間のすることじゃない?」
だって聞こえちゃったんだもん。
「道理でね。タイミング良く現れるなって思ったら。まぁいいわ。どうして辞めるつもりないの?」
「え?なにそれ、答える必要ある?辞めたくないから辞めないだけだよ」
「じゃあ質問を変えるわ。学園不思議研究部なんて、必要あると思う?」
必要、ある?
彼女は遠回しにこの学校にそんな部は必要ないと言っているのだ。
正直、活動と言える活動なんて、記事を作る以外、何もない。
だけど、僕は敢えて胸を張ろう。言ってやろう。
「必要あるよ」
埜嶋さんの眉がピクッと一瞬動いた。
「活動はちゃんとやってる。記事読んだことないの?」
「あるわよ。でも、あの記事の文面って新斗くんによるものよね?」
…………………大正解。
さっすが同じ生徒会役員。
「確かに新斗が文面を考えているけどさ。他のみんなで協力して作ってるんだ。毎週毎週がんばって作ってるんだ。まだ一度も〆切をオーバーしたこともない。どこか文句があるの?」
ヤバい。少し言葉が過ぎた。
頭に血が昇って………。
「………へえ、神名くんって、結構言うのね。でもね、その記事を作ってるのが、主に新斗くんっていうのが問題なの」
「え?………なんで?えと?記事を書いてるのが新斗だから、問題なの?」
コクりと頷く。
何故、新斗だと問題あるのだろうか。
「あのね、新斗くんには生徒会の仕事もあるの。その仕事をわざわざ家に持ち帰ってまでやっているのよ?学園不思議研究部なんて訳のわからない部活に顔を出しているせいで、生徒会の仕事は全然終わらないし!そのおかげで新斗くんは最近ちっとも生徒会室に顔出さないし!全然新斗くんと一緒にいられないじゃない!!」
「だったら僕らが新斗を…………………………………………………………え?」
「あ」
「………………ん?」
最後だけ、おかしくない?
埜嶋さんの顔はみるみる赤くなっていく。まるでハバネロのように。
「い、今の忘れなさい!!一緒にいられないとかじゃなくて!いなくて寂し、違う!違うってば!!」
ニヤニヤが止められない。
「違うんだってば!!」
「ははは、うん。ごめん、わかったよ」
宥めていると、少ししてから埜嶋さんは落ち着いた。まだ少し鼻息荒いけど。
「あ、ところで埜嶋さん」
「………………なによ」
「新斗のどこが好きなの?」
「寡黙のところとか、眼鏡がクールにキマってるところとか、頼り甲斐のあるところとかってえ!!なに言わせるのよー!!」
「あははははははははは!!」
この子、からかうと面白い。
「と、とにかく!生徒会には新斗くんが必要なの!だから新斗くんにこれ以上ちょっかい出すのをやめてくれる!?………………は、話はそれだけ!」
顔は赤く、鼻息荒く、僕に指を差す。
言いたいことは、わかった。
でも、ごめんね。
「お断りだよ」
埜嶋さんを敵に回すのはあまりよくないが、ここまで言われたら、こう言い返すしかないじゃないか。
だって、何を言われても僕は、あの場所を壊すことなどできないから。
そして、壊されてなど、たまるものか。

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