《MUMEI》

「何?くすぐったい」
何を言うこともせず、唯髪を撫でるばかりの山雀へ少女はその言葉通り僅かに笑みを浮かべる
「もう少し、あたり見回ってくる」
念には念を、と言い残し山雀は飛んだ
全ては無駄
先の相手の言葉が何故か耳に付いて離れない
何故、ヒトの言葉などにこれ程までに掻き乱されてしまっているのか
苛立ち、その言葉を振り払うかの様に頭を振った
次の瞬間
突然に近くで爆音が鳴り響いた
その振動で揺れる寄生木
葉がざわめくその音に、其処に留まっていた鳥たちが一斉に散っていく
「……何事?」
鳥たちが飛んでくる方を見やれば、その奥に見えてきたのは朱
夕焼けのソレではない色に、何事が起きているのかを少女は暫く経ってから理解した
「……燃えて、る?」
漂ってくる白い煙と、臭い
見える全てが、段々と燃え始めてしまっていた
「どういう、事なの?なぜ……」
山雀達の周りにもその煙は漂いだし
その煙から逃れるため、山雀は取りあえず宙に浮いた
眼下に広がる、一面の朱い景色
その中に、群れをなすヒトのそれを山雀は見つける
「……あれは、人間?」
手に松明を掲げ段々と近づいてくるヒトの群れ
その姿がはっきりと見えると途端に少女の表情が強張った
「……人、炎。燃えて、しまう。また、あの時みたいに!」
「おい」
「山雀!駄目、駄目なの!このままじゃ!!」
まるで何かスイッチが入ったかの様にわめく声を上げ始める少女
現状が今一飲み込めないで居る山雀は少女にその理由を問う
「……見つけた。二人共」
突然に聞こえてきた声
どこから聞こえてくるのかと山雀が視線を巡らせれば
その声の主は立ち込める黒煙の中から突然に姿を現す
その声の主は朱鷺
山雀達の方を見やり、厭らしく笑みを浮かべて見せる
「……君は、何を躊躇してるの?」
少女へと声を向ける朱鷺
何故、との問いに返そうと口を開きかけた少女へ
朱鷺は真を置くこともせずに言の葉を続ける
「……君が、親鳥になっちゃえば良いのに」
朱鷺のその一言に少女の表情が強張る
「そうだよ。人間が駄目って言うなら君を親鳥にすればいいんだ」
さも良い思い付きのように朱鷺は手を打ち鳴らし、そのまま少女の方へと近く寄っていく
伸ばされた手から逃れるかのように少女は山雀の背後へ
山雀もまた庇ってやる様に立ち位置を変える
「……そのまま、ずっとその鳥の後ろに隠れているつもり?」
「!?」
朱鷺のその言葉に少女の目が見開いた
「いいよね、君は。そうやって守ってくれる鳥がいて」
瞬間に曇る朱鷺の表情
だがその曇りはすぐに失せ、ふてぶてしい笑みを浮かべて見せる
「……いいよ。君がそのつもりならこっちにも考えがあるから」
言い終わると同時にあたりに目配せをする朱鷺
それを合図に現れ始めた人影に、山雀達は周りを囲まれた
「……これは、何?」
少女の声が僅かに震えて聞こえてきた
何、と問うてしまう程に、周りを取り囲むそれらは異様な姿をしていたのだ
ヒトではなく、かといって鳥のそれでもない
見るからに異様な何かだった
「……全部、親鳥を作ろうとして駄目だった失敗作だよ」
「失敗、作……?」
「そう。本当に人間って役に経たないよね。嫌にな――」
唐突に、朱鷺の声が不自然に途切れた
何事かと驚いた、次の瞬間
朱鷺の首が、血飛沫を上げ刎ね飛んでいた
飛び散った血液が少女の全身を汚す
「……鳥は、いらない。鳥は、全て殺す――」
勢いはそのままに少女へと突き付けられたのは刀
少女は何事が起こったのか理解しきれないままに転がって行く朱鷺の頭部を見やる
殺したのは、人だ
「……何を、してるの?」
問うたその声は僅かに震えていて
この状況を何とか打破しようと山雀が動こうとするが、それを察した人間共が先にそれを取り押さえてしまう
「……鳥じゃない。ヒトで、ありたい――!」
「どういう、事だ?」
「……鳥さえいなければ、寄生木さえなければ――!」
自分達はこの様な姿になる事もなかったとでも言いたいのだろうか?
ひどく身勝手な物言いに、山雀は苛立ち髪を掻き乱す
「 ――ふざけないで」
それを制止するかのように声を発したのは少女

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