《MUMEI》
幻聴。
幻聴が聞こえる。
誰もいるわけがない。何も聞こえるわけがない。
目を瞑り、耳を塞ぐ。
これが何の意味をなさないことは知っている。
だが、やらずにはいられない。


…………逃げるな…………



ズキン、と頭に轟くような痛みと声。
足が震える。
「に、逃げてなんか………いない………!」
誰からでもわかる、嘘。
目頭が熱くなる。
ガチガチガチ
耳障りに思えるその音は、自分の歯が震えて擦り合う音。
自分でも精神的に参っているのがわかる。
誰かに相談した方がいいだろうか、と自分に都合のいいことを考える。
ダメだろう、と思い直す。
自分は嘘を憑いた。
表向きは他人を気遣っているように見せかけて、本当は自分のことばかり考えていた。
その嘘のせいで、バラバラになった。
そんな人間が、そんな自分が助かりたいがために皆を頼るのは、間違っている。
自分で解決すべきなのだ。
それができて漸く、ボクは皆に追い付ける気がする。
心の中でそう誓い、ボクは唇を噛む。

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