《MUMEI》
決別。
今日は久しぶりに生徒会執行部に役員全員が揃った。
だが、やることに大して変わりはない。
「おい一真。この書類、誤字が果てしないぞ」
「マジで?」
泉佐野生徒会長と幼なじみの雲雀一真書記。根は真面目なのだが、少しばかりチャラい。書く字は綺麗なのだが、如何せん、脳の中身が残念である。ちなみに三年生。
「マッジかー。佐久ちゃん通ったからオッケーって思ってたんだけどなー」
「え?」
思いがけない台詞。
泉佐野生徒会長はボクに見えるように前に出した。………まったく覚えがない。
「佐久間くん。なんだか最近考え事が多くて仕事に身が入っていな」
「ちょっといい?新斗くん」
ボクと泉佐野生徒会長の間に埜嶋が入り込む。
「あ、ごめんなさい」
「いや、いい。続けてくれたまえ」
許可をもらい、埜嶋はボクに一枚の書類を見せる。
「部費の予算額なんだけど…………計算がどうしても合わなくて。確認してもらってもいい?」
その書類は埜嶋に回す前にボクが目を通したものだった。
「これ………ボクの計算ミス、だ」
簡単な足し算のはずなのだが、ものの見事にやり直しレベルのミスを連発していた。
こんなにもミスを繰り返したのは初めてで、膝が笑う。
そんなときに矢雷真紀奈庶務が生徒会室に顔を出す。
「ごめんね〜、誰か手空いてるかな〜。応接室に大事なお客さんが来るみたいで掃除頼まれたの〜。手伝って?」
矢雷先輩はほんわかとした口調で言う。いつも眠そうにしていて、仕事を与えないといつの間にか寝ていることもしばしばある。生徒会の唯一の二年生だ。
この時、泉佐野生徒会長はボクを一瞥し、顎をくいっと上げる。
「………じゃあボクが行きま、うわっ!?」
情けなさを胸に秘め、立ち上がろうとした途端に転倒してしまった。足が足に引っ掛かったようだった。
「大丈夫!?」
「うぅ………すまん………」
すっと出てきた埜嶋の手をとり、立ち上がるが、まだ足はふらつく。
泉佐野生徒会長の深い深い溜め息が生徒会室を埋める。
「佐久間くん」
その声は厳しく、鋭い。
「君はもう帰れ。そのような腑抜けでは仕事が進むものも進まん。それに今の君のような状態の者がこなせるほど生徒会執行部は甘くないのだよ」
その言葉がまるでナイフのようなものだった。
「君はもう明日から来なくてもいい。仕事は全て私がやっておく」
ズブズブと突き刺さる。
「会長!言い過ぎです!」
埜嶋が庇う。だが、泉佐野生徒会長は間違ったことを言っていない。
泉佐野生徒会長は埜嶋を意に介さず、言葉を紡ぐ。
「最近考え事が多いようだが、私達には言えないか?」
最後の言葉は、とても優しい声だった。
だが。
だけど………だけど………!
「すみません………言えません………」
言うわけにはいかない。
生徒会のみんなを巻き込むことはできない。
「…………………そうか」
僅かに怒りを含んでいた。
「信用もできないような人間には、尚更仕事は任せられんな。無論、次期生徒会長の座もな」
生徒会選挙が近いのは承知で、それを目指しているが。
こればっかりは、言えない。
「…………失礼、します………」
きょとんとしている矢雷先輩の脇を通り、最期に深く頭を下げた。
泉佐野生徒会長は、一瞥すらしてくれなかった。
この時、胸の奥が酷く苦しかった。

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