《MUMEI》
変化。
泉佐野生徒会長から生徒会を追放された翌日の放課後、ボクは何をするでもなく、教室でただ放心していた。
実を言うと、不思研に寄ることもなく帰宅するつもりだった。
教室を出る寸前、担任の教師から一枚の書類を渡された。
生徒会選挙の申込書だった。
無論、次期生徒会長はボクがやるはずだった。それはボクだけじゃなく、教師や生徒会メンバーは皆そう思っていたはずだ。
ボクが何も言わずともこの申込書を渡してくるということは、教師側から期待されていると取れる。
期待。その言葉を送るのは簡単で、とても軽い。だが、受け取る方は、果てしなく重い。
ただの紙っきれのはずの申込書は、今のボクには重すぎる。
「はぁ」
ボクに取り巻く不安感は簡単には拭えない。むしろ濃くなっていく。
堪らなくなり、頭を抱え、ため息を吐いた。
ふと、視線を感じる。
放課になってから結構な時間が経っている。教室には誰もいなかったはずだが。
机の上に置いてある申込書から視線を移動させる。
パチリ、と大きな目と合った。
「うわっ!?」
机の縁に目を合わせ、潜んでいたのは、逆間久美だった。
「こんにちは、新斗くん」
ボクが驚いたことに満足したのか、ひひひ、と屈託なく笑う。
「さ、逆間か………。部活はどうしたんだ?」
「それはこっちの台詞だよ。生徒会には行ってないみたいだけど、どうかしたの?」
質問を質問で返してくるとは。少しばかり説教してやりたいが、我慢する。
その空気を察したのか、逆間はボクの質問に答える。
「私はちょっと教室にノート忘れちゃってね。取りに来たんだ」
胸の前にノートを出す。《す〜がく》と可愛らしい文字で書かれていた。
「新斗くんはいどうしたの?」
次はボクが答える番、ということらしい。
「…………別に、なんでもないよ」


………………また嘘か………………


ズキリ、と胸が痛む。また、現象か…………。
痛みに耐えていると、ふと、逆間が何のリアクションもしていないことに気付く。
逆間なら、このまま手を引くだろうと考えていた。
逆間を一瞥すると、ボクは驚愕した。
眉間に皺を寄せ、怒りを露にしていたからだ。
「さ、逆間………?」
「どうして嘘を憑いたの?」
逆間はボクの核心を突く。
「ここで嘘を憑くなんて、不自然だよ。何かあるんじゃないの?」
「何もないさ。ただ今日は生徒会の仕事が無いだけで」
「また嘘。もう生徒会選挙まで日数無いのに仕事が無いなんて有り得ない」
うぐっ。
ボクとしたことが、図星を突かれるとは………。
それよりも、今日の逆間は一体なんだ?昔はもっと物分かりが良い印象があったはずなのだが。
変わった、のだろう。
中学生のボクらは、多感の時期。周りの影響で、善し悪しはあるが変化していく。
逆間は神名達の出会いで変わったんだ。
ボクは、変わっているだろうか。
皆との出会いで、変わっているだろうか。
こればっかりは自分ではわからない。
ボクは――――――
「聞いてるの?新斗くん」
「あ、はい」

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