《MUMEI》
本音。
「やっぱり………晴斗さんはそう言うんですね」
殖野さんの目からは、涙がポロポロと溢れ出ている。
「そうだろうと思っていました。千雨ちゃんのことを愛してるんだろうな、てわかっていました」
それでも、自分の気持ちには嘘はつけなかった、と殖野さんは続けた。
「き、君の気持ちは嬉しい。………やり方は間違っているけれど、僕は本当に嬉しかった。けど、僕には千雨がいる」
ほぼ全裸の殖野さんをあまり視界に入らないように目を反らす。
「千雨が好きなんだ。君を抱くより、千雨を抱きたい」
こういうことを言うのは千雨の身も危ないかもしれない。
だけど、正直に言わなきゃ、いつまでもこの子はどこにも進めない。
「たった一度の思い出だとしても、僕はそれを許さない」
いつまでも後悔するだろう。
それに千雨の立場はどうなる?
千雨が一度の思い出で他の誰かに抱かれるなんて、考えたくもないし、許したくもない。それと一緒だ。
それをすることで、千雨を傷つけてしまうことなんだ。
だから抱けない。
ここまで畳み掛けてしまったけれど、殖野さんは大丈夫だろうか。
…………あれ、刺されたりとか、しないよね…………?
媚薬の効果は未だ絶大で、あまり全裸の女性を直視したくないのが本音だが、この際仕方なくチラリと横目で彼女を見た。
号泣していた。
手で顔を隠すこともなく、拭うこともなく、ただただ涙を流していた。
その姿を見て、めちゃくちゃにしてやりたいという身勝手な事を考え自己嫌悪する。
僕には慰めの言葉は言えない。
再び視線を反らし、跳び箱の裏に座り込んだ。
その時、ガチャガチャと扉が音を鳴らし、開いた。
数分ぶりとはいえ、暗い空間にいたものだから、光は僕の目を眩惑させた。
「よー晴斗。迎えに来たぜ」
助けに来てくれたのは、意外なことに硬本だった。

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