《MUMEI》 光。「待って待って待って響介!」 すべてを話すと、風影は予想通り殴りかかろうとし、神名が止めている。 「先に言っておいただろうに」 「そういうことじゃねえだろ!」 ドタバタと暴れる風影を横切り、ボクに近付く人が一人。 ぱしん、と渇いた音が響く。 逆間が、ボクの頬を叩いた。 「ごめんね、約束破っちゃって」 約束、というのは恐らく先程ボクが言ったことのことだろう。 「でも、悪いのは新斗くんだよ」 わかっている。 口ではああ言ったが、実のところ風影が殴りに来ても甘んじて受けるつもりだった。 ボクの罪だ。 「なんで自分が大変な時でも、私達を頼らないの?」 さっき聞いた言葉。待つと言ってくれた。 けどこれは逆間の疑問ではない。ここにいるみんなの疑問だ。 ボクはこれに、答えねばならない。 「最初はひとりでも、なんとかできると思っていたんだ」 それが間違いだと気付くには、そう時間はかからなかったが。 「ボクの現象は『嘘を憑く』ことで起こる。なら、このまま嘘を憑かなければ、大丈夫だと、思っていたんだ」 だがしかし、長い間続けてきた生き方など、そう簡単には改めることはできない。 「目に見えない沼が足元にあって、どんどん、どんどん沈んでいって。ボクはもう、何も見えなくなった」 その真っ暗な空間は、ボクの心をいとも簡単に折れてしまうほど、脆くしていく。 「生徒会にも追い出されて、さらに追い詰められて。だからなんだ。辛かったから、ボクは光に手を伸ばしたんだ」 そして、それはとても都合が良い、傲慢な考え。 「自分でがんばっても無理だったから、みんなを頼るなんて…………そんなの許されないって思ってた。虫が良すぎると思っていた。………けど」 唇を噛む。 「ボクは……………みんなの光に、すがったんだ」 ボクは嘘憑きだ。大嘘憑きだ。 結局自分は、自分の身を守るためだけに、嘘を憑いていたんだ。 ボクはみんなよりも、気持ちすらも、弱い。 だから、ボクはみんなを頼る資格なんて 「んん?あの、新くん。それの何がいけないのかな?」 独白の最中なのに。天草が首を傾げる。 「いやだって、ボクはこんなに都合よくて、傲っていて、こんな勝手なのにみんなを頼るなんて許されるわけが」 「OK、新くん黙って」 天草の凄味に一瞬戸惑い、生唾を飲んだ。 「久美ちゃんがぶった気持ちすっごくわかる。でも、こうして頼りにきてくれたからもう何も言うつもりはない、けど」 ギロ、と天草は睨む。 「許すとか許さないとかってさ、それは新くんが決めることじゃないよね」 「だ、だがボクはみんなに対していろいろと」 「黙ってって言ったよね」 「はい」 初めて天草が怖いと思った。 「新斗はさ、強くあろうとし過ぎたんだよ」 落ち着きを取り戻した風影の隣で、神名が言った。 「お前はそのせいで、どうせ誰にも相談とかしてなかったんだろ。潰れて当然だっつの」 ふんぞり返る風影。 「お前のカッコ悪いところはたくさん知ってる。今更それがひとつやふたつ増えたとして、それがなんなんだよ」 「カッコ悪いところ全部受け止めてあげるよ。だって僕達、友達じゃん」 嫌な顔をしながら、風影はボクの頭をくしゃくしゃに乱す。 ただの嫌がらせではないことには、すぐ気付いた。 ボクの目からはまた、止めどなく涙が溢れていた。 半強制的に俯かされ、みんなからこの涙は見えない。 ボクは何故、すぐにみんなを頼らなかったのだろうと後悔する。 「新斗くん」 ボクの前に立つ逆間。 顔を上げると、手を差し伸ばしていた。 「大丈夫」 なんの脈略もなく、言い放つ。 だが、この言葉の意味は理解できた。 「みんな、ありがとう」 まだ慣れていない笑顔を作り、礼を言う。 初めて自分の意志で、笑おうと思えた。 きっと、そう思える日は多くなるだろうと思えた。 前へ |次へ |
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