《MUMEI》

その声色は明らかに時を孕んでいた
「……人は、どうして其処まで身勝手になれるの。どうして!?」
僅かに声を震わせてしまいながら怒鳴り散らせば
周りの人間共は唯々、嘲笑って見せるだけ
「……お前達にそれを言う権利があるのか?鳥を生み出すため人間を餌にしているお前達が」
「それ、は……」
指摘されたそれに少女は咄嗟に何も返せずにいた
そう、やっている事は何も変わらない
何方が正しく、何方が間違っているのか
それは結局の処、自分自身にしか分からないのだ
「……殺せ!鳥は全て一匹残らずだ!」
何も言い返せずそのまま立ち尽くしているとどこからか声が上がる
その声に呼応するかの様に周りが声を上げ、人間が皆山雀らへと襲い掛かってきた
ああ、本当に人間は身勝手だ
「……こいつら、どうする?」
少女の身体を小脇に抱え、山雀はひらりヒトの群れをかわす
そんな中、山雀の問いに暫く無言をとおしていた少女だったが
すぐに目を伏せてみせる
その仕草は何をいみするのか、山雀にはわかったようだった
山雀はやれやれと肩を落とすと徐に身を翻す
そしてその姿を、鳥のソレへと変えていた
「……ありがとう。私の唯一の(子)」
まるで詫びる様な感謝の言葉と同時に見えたのは少女の笑い顔
普段余り感情を表に出す事をしない少女が不意に見せたそれは
今にも崩れそうな程に脆く、儚げなモノに見えた
山雀は羽根を羽ばたかせ、少女の指先へと停まると
何か合図を送るかのように指先を啄み始める
それに促されるかの様に少女は山雀を掌で包み込み、そして
その身を握り潰していた
くたりと首を擡げ動かなくなってしまった山雀
それを少女は口に含み、その直後少女の姿が変化し始める
どろりどろり溶けていくように少女の姿・形は失せ
その消えた後には黒い何かが広がり始める
其処から何かが現れ始めた
「何、だ。あれは……」
段々と姿を現したのは、鳥
全身漆黒の羽根で覆われ、高々と声を上げながら広げて見せたその羽根はまるで深い夜の様に暗いものだった
「……消えて、しまえばいい」
感情がまるで籠らない声でそれだけを呟くと
闇のようだったそれは更に広がっていき本物の闇へと変化を始める
自身の指先さえ見えない程の黒の中、人は皆動揺を始めていた
「何故人が今まで生き延びてこられたか、分かる?」
誰に向けるでもない問い掛け
当然返答はないが、それでも少女はその問いに対する答えを自ら口にする
「・・・・・・他の生き物は、秩序を重んじているから。人間と違って」
秩序を守り、人が危害を加えない限り襲う事はしない
只々それに従順であったからこそ人は弱くありながら生きながらえているのだ
「……人間は、馬鹿ばかり。たった一人では何も出来はしないのに」
溜息を付きながら吐き出す言葉
それは一体、どれ程の人間の耳に届いているのだろうか?
そんな事をつい考え、だがすぐに無駄だと少女はまた溜息をつく
「……孵っても、いいわよ。山雀」
感情泣く呟いた、その直後
深い、黒しかない其処に音を立てて罅が入り、僅かな光が差し込んでくる
その光を背負い現れたのは
その光さえ消してしまいそうな程深い黒を背負った巨大な鳥だった
少女は僅かに笑みを浮かべると軽く地面を蹴り付け飛ぶ事をする
ふわり山雀の背へと乗ると、何かを促してやるようにその羽根を柔らかく撫でていた
「・・・・・・今のこの世界、あんたにはどう見えてる?」
ふわり浮き、眼下に広がる景色を眺めながら少女が徐に呟く事をすれば
その視線を追い、山雀も視線を僅かに下へと向ける
ああ、醜い生き物達が蠢いている
そんな事を思っているのだろうか?
僅かに首を振る様な仕草をしてみせる山雀へ
少女は宥めてやるかの様にその毛を鋤いてやった
「・・・・・・大丈夫。世界はまだ、あなたに優しいわ」
だから何も気にする必要はない
せの少女の声で山雀は救われた様な気がした
大丈夫、世界そのものを壊す訳ではないのだから、と
ふわり柔らかな笑みを浮かべて見せる少女
その言葉に、山雀はフッと肩を揺らした 
一際高く鳴く声をあげ、山雀はそこから急降下を始める
勢いそのままに爆音と砂埃を巻き上げ降りたそこは

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