《MUMEI》
「話はそれからだ」
さっそく近くの銀行に立ち寄り、ATMでお金を引き卸す。
SOGOだしな……。一万円近く卸すことにした。
「お待たせ」
ソファーに腰かける伊桜に声をかける。
反応し、振り向く仕草が可愛い。
駆け足で近付くその瞬間、ぞわりと悪寒が走る。
これは、悪魔の気配だ。
だが、これは今までのような雑魚ではない。
確実にレヴィアタンに匹敵する負の感情だった。
これはレヴィアタンのように俺が目的ではない。
目的は別にある。
それは直接生き死に関わるものではないように感じたが、やり方によっては犠牲者が出る可能性は充分ある。
これは危険だ。
あまりの負の感情の渦に、思わず膝をついてしまう。
伊桜が心配そうに駆け寄るが、それよりも先に俺を支える者がいた。
「大丈夫ですか?」
無表情に俺の顔を覗きこむ。
「え、あっ、大丈夫………です」
顔の造形はあどけなさが残るものの、大人っぽい雰囲気と服装によって年齢が掴みとれない。そんな印象の女性だった。
そうこうしている内に負の感情は更に肥大化していく。
ここまでくると、もう止めることは困難だ。
ったく、何故今なんだ。
男である俺の体を支えたまま抱えあげ、伊桜の座るソファーに腰かける。
「あ、ありがとうございます」
無表情にぺこりと頭を下げ、俺の隣に座り出した。
「…………葉月ちゃんの知り合い?」
伊桜は俺にそっと耳打ちする。
「いや、俺も知らない」
ちらりと一瞥しても見たこともない顔だ。…………けっこう美人だ。
「………っ」
嫌な予感。
これは、マズイ気がする。
「葉月ちゃん?本当に大丈夫?」
「あ、ああ。それよりも、早くここから出よう」
ここに居てはダメだ。
早く。
だが、時すでに遅かった。
ダダダダダダダダッ!! という爆音が銀行内を包んだ。
数々の悲鳴とともに、耳を抑え、頭を低くするのは人間の本能か。
火薬、いや硝煙の臭いが鼻を燻り、何事かと見回す。
その中で、たった三人だけ何事もなかったように直立している者がいた。
「お前ら一ヶ所に集まってもらおうか。話はそれからだ」
ガシャリ、と弾丸を装填し、こちらに向ける。
阿鼻叫喚の、地獄絵図の出来上がりだった。

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