《MUMEI》
「○○○」
冷静に現状を分析。
銀行強盗の人数は三人。
そのうちの一人は金庫へ向かっている。
正直金庫のお金を盗られようと俺には関係ない。
とりあえずそいつは無視。
次に、俺を含め人質を監視する二人。
重火器を持っており、下手に刺激すればここは血の海と化するだろう。
あー知恵熱出そう。こんなに考えるのは久しぶりだ。
こんな時ギアスが使えたらいいのに。お前ら全員、○ね!
ま、無難が一番かね。
「すんません」
勇気を出して手を上げる。
瞬間、二つの銃口がこちらに向く。怖い怖い怖い!
「なんだよ、死にてえの?」
んなわけねえだろ。
裾を思い切り引っ張られ、襟が首に締まり、ぐえっとなる。
後ろを向けば、まぁ十中八九伊桜でした。
なに考えてるのー!!って言いたげな顔だった。
それに対して俺は笑顔で返す。
「なんか緊張してお腹痛いんですよね。ちょっとトイレ行かせてもらえませんかね」
無難っていうか、漫画でよくやるような分断作戦だ。
「ああ、そうか。じゃあ今から楽にしてやるよ」
えっ?……ええっ!?行かせてくれないの!?
さすがに予想の遥か上空の答だった。
「いやいやいや!ちょっと待ってくださいって!人質ってそんな簡単に殺しちゃっていいんすかね?」
「いっぱいいるし」
見回せば、十数人はいる。
「で、ででででも!」
「うるせえな。もう飽きたし、殺しちゃうか」
ガチャ、と重々しい重火器が俺を捉えた。
…………そうだった。こいつらはもう、人を殺してるんだった。
悔やんだり、哀れんだりしないところを見ると、こいつらは罪の意識をまったく感じていないようだ。
種族が違うだけで、こいつらも正真正銘の悪魔だろ。
「待て!」
引き金に指を掛けた強盗を大声と手で制す。
「今俺を殺すと、あんたらにとっても不利益だと思うぜ」
「なに?」
引き金から指が離れる。これだけでもめっちゃ安心する。
「どういう意味だ」
「今俺を殺せば――――――――確実に○○○が漏れる」
――――――――――――
―――――――……
約三十秒の沈黙。
「知ってるか?死んだ瞬間は全身の硬直が解けるんだ。つまり、今俺が我慢している○○○が出放題なんだよ。ちなみに○○○だけじゃねえぞ?○○○○○もだ。もし漏れちゃったら此処は○○○まみれで○○○臭が漂うわけだ。さらに最近ちょっとお腹壊しちゃってるから○○かもしれない。ああ汚ない。ああ臭い。そんな中でずっとここで待っていられるか?無理だと思うよー?マスクもしちゃってるもん。マスクって防臭効果はないんだよ。くっさいよー?トイレ行かせてくれた方が献身的だと思うよ。まぁ臭くてもいいんなら、ここで俺を撃ち殺しなよ。ほら!やってみろよ!」
早口で言い切る。
強盗は多少怯んでいるように見えた。
「…………おい、連れてけ」
命令された方はとても嫌な顔をした。…………変装越しでもわかるもんだね。
過程はともかく………これで分断作戦は成功だ!
と、最高の笑顔を見せようと後ろを振り向くと、当然伊桜はドン引きしていた。
それどころか、他の人質の皆さんも。
大事なのは結果だ!と言うけれど、過程も同じくらい大事なんだね………。
俺はこれを身をもって知ることとなった。
作戦成功と共に失ったものは大きかった。

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