《MUMEI》
「人間ってのはさ」
「あれ?ここって、トイレじゃないっすよね?」
たどり着いた場所は、応接間のような部屋だった。
え、ここでしろってか?こいつ………なんてイリーガルな趣味を…………。
「ここで死ね」
ゴツ、と重火器の銃口が背中を押す。
ふぇぇ、また予想外な展開だよぉ……。
だが、ピンチであるのに、俺の頭の中は冷えていく一方だ。
現状、分断作戦に成功しており、ちょこっと場所が予想外だったが、十分修正可能の範囲だ。
とにもかくにも、この重火器を撃たせてはダメだ。
当たらなくてはどうということではない!と言いたいところだが、他の二人に気付かれると厄介なことになる。
速やかに、それもなるべく静かに、こいつを沈黙させねばならない。
深く息を吸い、「ハッ」と吐いた瞬間に腕立て伏せの伏せた態勢になる。
「な!?」
只でさえ視界の悪いサングラスをかけてるんだ。一瞬でも、こいつから見たら消えたように見えるだろう。
右足を伸ばし、男の右足に絡み付き、膝の関節を折る。
ガクン、と男の身体は崩れ落ち、尻餅を付いた。
俺は素早く立ち上がり、俺に向こうとしている重火器を腕ごと踏みつけ、さらに男の顔面に合計四発殴り付けた。
「よし」
目標は完全に沈黙。殲滅完了だ。
念のため重火器を男の手に届かないところまで蹴り飛ばし、男の着ていた服を縛り付け、拘束完了。
案外あっさりといけたものである。
あとは、二人。
それにしても、こいつらはどうもおかしすぎる。
人を殺すことに躊躇いがなさすぎる。
なら、戦争しかしてきたことのないような野蛮人なのかと思いきや、俺に簡単に撃退される程の素人だ。
ということはだ。
こいつらは悪魔に唆された、被害者だ。
「いやでも、こいつら喋ってるし、意志があるっぽい?」
前のようなゾンビみたいな感じじゃないしな。
「恐らくだが」
「うわっ!?」
着ているジャケットの内ポケットから自称天使のグルルヌがひょっこり顔を出す。
「お前、なに付いてきてんだよ!あといきなり声出すな!びっくりする!」
「デート中に声をかけるという無粋な行為をしなかっただけマシだと思ってくれ。それよりも話の続きだが、一応仮説はある」
恐らくとか一応とか仮説とか、要はよくわかっていないんだろう。
「彼らは自らの大罪を自覚し、それを受け入れているんだ。そこまでいってしまった人間ほど御しやすいことはない。恐らく彼らは自分が暴走し、やり過ぎていることに気付いていないだろう」
「はぁん。そんな人間、唆したり直接操ったりするまでもねえってか」
「少し手を加えるだけでいいのだから悪魔も力を温存できるし、いざとなれば乗っ取ればいい」
「………こいつら悪魔にとっては最高の駒ってことか」
「君が気に病むことはないよ。大小はあれど、奴等はこういった事の欲求が元々強かったはず。救い要のない人間ばかりだ」
グルルヌのこういう合理的主義はやはり好きになれない。
「人間ってのはさ。お前が考えてるほど極端じゃねえから」
それだけ言うと、グルルヌはこれ以上何も言わなかった。

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