《MUMEI》

どれくらいの刻が過ぎたのだろうか?
永劫のようでもあり、一瞬のようでもあった。


星良の意識を冷たい闇から引き戻したのは、どこかから聞こえてくる耳障りな
不協和音だった。


その音は、中世の攻城兵器の破城槌『はじょうつい』のように、忘却の彼方に避難した彼女の意識を揺さぶり続けた。


がッ!ゴンッ!


ガッ!ゴッ!


意識を守る城門を、その一撃ごとに破城槌は容赦なく破壊していく。


やがて門には亀裂が走り、広がる裂け目からは血が河となって流れ出した。


門をこじ開けてなだれこんで来るのは、星良にとって歓迎すべからざる「現実」という名前の軍勢だ。


再び「無情な現実」に引き戻され、星良は仰向けのまま、改めて周囲を見回した。


横を向くと、完全にガラスのなくなった窓際でボロボロのカーテンが風に揺れている。
四角い穴から夕陽が差し込み、がらんとした部屋の中を血の色で染めていた。


廃墟...病院...


不意にこの場所に関するイメージが浮かぶ。
それと同時に、フラッシュ・バックのように過去の記憶が戻ってくる。


買い物の帰り道...人通りの少ない
路地...背後から迫る車の音に振り返る。
星良の行く手を塞ぐように、ブレーキを軋ませワンボックス・カーが停止する。 ドアをガラガラと開けて飛び出して来る、目出しマスクを頭からすっぽりと被った男達。


そうだ!私は拉致されたのだ!


そして...そして...


いやあああああああああ!!!!


その先の記憶を追うのを、またも思考が拒絶した。

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