《MUMEI》
揺れる思い
寝静まった深夜、ロックは一人ロビーでラム酒をあおっていた。セリスの気持ちがわからなかった。 
フェニックスの洞窟で再会した後、真っ先にレイチェルの元に向かったのに、セリスはただ見守ってくれていた。あの時はセリスの思いはまだ自分と繋がっていると思えた。なのに、最近のセリスはまるで生きる意思がないようにはかなげな笑みを浮かべるようになった。
「くそー…わかんねぇ」

ロックはそのままセリスの部屋へと向かった。
ドアをそっと開ける、セリスは眠っているようだった。
そっとベッドの横に腰掛ける。静かな寝息をたてるセリスは普段の大人びた風貌とは違って、年相応の少女に見えた。

『過酷な経験が、セリスをこうしたんだな…』
ふとロックは思う。10代の半ばにして、帝国のエリート騎士として戦場の先頭に立ち、そしてその帝国を裏切り、俺達の仲間に…

不意にセリスの眉間に苦悶の色が写り、頬を涙が伝う。ロックはそっとその涙を拭い、しばらく考えたあと部屋を立ち去るのだった。

『セリスの苦しみを受け止めてやらなきゃならない…』


「ティナ、こっちのリボンのがお似合いよ」
「本当?ちょっと派手じゃない?」
ティナははにかみながら、髪を結う。戦いの日々の中で同い年の二人は、姉妹のように何でも打ち明けられる仲になっていた。おっとりしたティナをセリスが引っ張っていく事が多かったが、心底から優しいティナにはセリスも本音で話せるのだった。
「ねぇティナ、戦いが終わったら、モブリズに帰るの?」
「うーん、まだあの子達だけじゃ心配だし…きっとそうすると思うわ、と言ってもまだそんな考えられないけど」
「そうね、私も全然考えられない…何も」
セリスは鏡越しに答えた。昨日のロックとの事はセリスの胸をざわつかせていた。思いがけずキスされた事で、ロックとは今日まだ一言もしゃべれていなかった。
「…セリス、お願いがあるの」
「何?改まって…」
「…もし私が生きて帰れなかったら、モブリズの子供たちをお願い」
ティナは微笑みながら言った。
「…ティナ…そんなダメよ」
「私は…半分幻獣の血が流れてる。この世から魔法の力が消えたら、生きていられるか…」
「……ティナ…私は…」
「セリス、あなたは生きなきゃダメよ。たくさんの人が、何よりロックが必要としているわ」

ティナの言葉は重かった。彼女が戦いに挑むということは、自分の生命を失うかもしれないのだ。それでも、モブリズの子供達を救うのはケフカを倒す以外にない。セリスはティナの中のまっすぐな強さを見た気がした。
「ティナは強いのね、私はすぐ迷ってしまうから…」
「そんな事ないわ、セリスは誰よりも強い人よ。…もし、あの時セリスやマッシュ達に助けてもらえなかったら、今私はここにいないもの。ここまでみんなが揃ったのはセリスのおかげよ!」

セリスの中で、ティナの言葉はセリスに重くのしかかった。

『ティナは生きたくても生命を失うかもしれない…なのに私は生きる事すら放棄している…』

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