《MUMEI》
鏡T
その夜、ファルコン号のロビーにメンバーが集まった。瓦礫の塔への突入は明日に決まったのだ。
リーダー格のエドガーがメンバーに向かって告げた。
「瓦礫の塔はどうやら複雑な作りになっている。そのため、パーティーを3つに分けて突入になりそうだ。パーティーはみんなの力を見て、なるべく均等に分けるように編成する。…必ず全員でケフカにたどり着こう」
「もちろんだぜ、ここまで来たらもう躊躇なんでしてられねーぞ!」
マッシュはみんなを鼓舞する。メンバーの反応はそれぞれだったが、その表情は一様に引き締まった顔だった。
1番年下のリルムだけは、
「私はじいさんと一緒がいいな、年寄りは心配だから」
などと冗談めかしたことを言い、みんなを和ませた。
「明日の夜、ファルコン号から瓦礫の塔に突入する。…あさっての夜明けと共に戦闘だ。長い一日になるだろう…。明日は昼間はこのまま停泊する、ゆっくり過ごして戦いに備えてくれ」

部屋に戻ったセリスは装備品の手入れをしていた。世界崩壊後から、ずっと共に戦って来たアルテマウェポンは、柄の部分がいくつか細かい傷ができていた。
コンコン、とノックの音がする。セリスがドアを開けると、ロックが立っていた。
「よっ」
「もう準備は済んだの?」
「もちろん、普段から身軽なもんしか持ち歩かないしな、ちょっと上で話さねぇ?」
「……」
セリスはティナの言葉を思い出した。ちゃんと心の整理がしたかった。
「ええ、じゃあ上で。すぐ行くわ」

明日の準備を整えたあと、腰まである豊かな金髪をきれいに梳いて、鏡を見た。自分の顔を人は美しいとか、綺麗とか言ってくれるが、自ら意識したことはなかった。むしろ外見を褒められるほど、自分のプライドが傷付けられる気がしていた。

デッキを上り、甲板の端に向かう。ロックが腰掛けて待っていた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「いや、呼び出してごめんな。…でも今日はセリスにちゃんと言いたいことがあったんだ、聞いてくれる?」
「…私もよ、ロックにちゃんと話さなきゃって思ったの。…先に話していい?」
「ああ」
セリスはロックに並んで手摺りに腰掛けた。そして彼の手に自分の手を重ねた。重ねた手を、ロックはそっと握り返した。セリスがぽつり、ぽつりと話し出した。

「…ロック、この前はごめんなさい、…言ってくれた言葉、すごく嬉しかった」
「…考えてくれたのか?」
「でも、私にはケフカを倒した後の事は考えられないの…」
そう言ってセリスはうつむいた。
「セリス、…前から思ってたんだ。この戦いでお前死ぬ気だろ…?」
「…」
「帝国での過去の事を今でも後悔してる、だから…」
「…後悔じゃないわ、恐れよ」
そう言って、セリスは手で顔を覆った。
「罪のない人を…自分は心なく手にかけた…。今でも夢を見るわ…それなのに戦いが終わって何もなかったように生きていけないのよ…」

涙がこぼれた。セリスはこんな事までロックに言うつもりでなかった。でも自然と口をついてでた言葉は、彼にわかってほしかったのかもしれなかった。
「セリス…」

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