《MUMEI》
覚悟。
今度こそ完全下校時刻になり、ボクら五人は部室を一斉に出た。
ボクが一番先に出たのだが、その際視界の端に動きがあった。
どうやら隠れるように曲がり角に潜んでいたように見えた。
「すまない。先に行っててくれないか?」
そう告げると、四人は疑いもせず、各々別れの挨拶をし、人が隠れている曲がり角とは逆の方向に歩いていった。
なんとなくだが、隠れている人の正体はわかっていた。
男子トイレの前を通過し、ゆっくりと近付く。
「埜嶋」
「え…………なんで」
ボクはまだ姿を見ていない。なら驚くのも無理はない。
「勘………だよ」
「意外。新斗くんは勘なんかに頼らない人だと思ってた」
言いながら、ひょこっと姿を現す。
「間違ってはいないな。けど、ボクだって変わっていかなきゃ」
コートを着ている彼女は、手先と鼻が赤かった。まるで寒い所でじっと動かずにいたかのように。例えば、冷たい風が吹き付けるこの廊下とか。
自分が巻いていたマフラーを埜嶋の首に巻いてやる。
「え、別にだ、大丈夫だよ」
「凍えながら何言ってる。ほら、手袋も」
「…………あ、ありがとう」
「んん?さらに顔が赤くなっていないか?」
「この………!にぶちん!」
「な、なんだと!?」
このやり取り、なんどな不思研の連中と一緒にいるようだった。
次第にお互い、笑いあう。
心地が良い。
「元に戻ったというより、前よりも良い雰囲気になったかな」
「ボクがか?」
確かにきっかけはあった。
だが、こんなにも早く変われているのだろうか。
「半年くらい前から、時々今みたいな良い雰囲気とかあったよ」
…………そうか。あの時からか。
なんだ、ボクはちゃんと変われていたんじゃないか。
「ところで埜嶋。もしかして、盗み聞きか?」
「う……っ」
罰の悪そうな表情をする埜嶋。
「うん、ごめんね。でもね、信じられないと思うけど、扉で声が曇ってて、よく聞こえなかったのよ」
「信じるさ」
というか、もしも聞こえてたとしても小鳥遊晶のことなど理解できるわけがない。
「盗み聞きなんて最低って………神名くんに言ったのに、私…………」
「あいつはもう覚えていないと思うぞ?気にする必要はない」
「そうかな」
訝しい表情になり、俯く。
「ボクが言いたいことはそれじゃないんだ。ボクを見てくれ」
俯く埜嶋の両肩を掴み、埜嶋は顔を上げ、ボクと視線を合わせる。
「ボクは生徒会長になる。泉佐野会長と争うことになったとしても。その覚悟はできている」

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