《MUMEI》













「機嫌…悪いよね、後免ね」



「いえ……」




後部席に揺られ、俺はミネラルウォーターをぐっと飲み込んだ。





「明日坂井君オフなら打ち合わせ明日にずらさせて欲しいって、先方に言われてさー
どうせならゆっくり話たいんだってさ…
昨日言い忘れて…ごめんね?」




そんなの断わって欲しかった、折角久し振りのオフ…。




伊藤さんと…



離れたくなかったのに――!!

悔しい。

泣きたい。




当たりくれたいッ!!!


「何と言ってもファースト写真集だからね、だから構成とか希望があったら本人から色々聞きたいんだってさ」





「はあ…、本当に俺なんかの出して良いんでしょうか…、絶対売れないですよ…」






最近写真集の話が入ってきた。




さすがに雑誌と違って、自分一人だけの本なんて…、めちゃめちゃ怖い。



書店で誰も買ってくれなくて、山積みのままいつまでも晒されるのは余りにも…痛すぎる。


「はー、分かってないね、今坂井君は隆志に並ぶ勢いで人気有るんだよ?ブログのアクセス数なんか追い越す勢いだし」



「はあ、そうなんですか?」



信じられねーよ。


つか身内知り合いが俺が可哀相だって思って何度もアクセスしてる可能性もある。





そんな事より…










俺はそっと自分を抱きしめる。








――伊藤さん。






まだ離れたばっかなのに…






もう会いたくて…





堪らない……。





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