《MUMEI》

渡すなり母親はまた外へ
何故あれ程まで落ち着きがないのだろうか、と三浦はまた溜息だ
「……取りあえず食うか」
どうせ帰っても一人なのだろうからと誘ってみれば
佐藤は一瞬の間を置いた後小さく頷く事をする
各々好きなパンを食べ、そして食事も終わりに差し掛かったころ
「……士郎君、ほっぺた」
佐藤が徐に三浦へと手を伸ばす
何か付いているのか尋ねるより先に、佐藤の指先がそれを拭ってた
「……クリーム、付いてた」
はにかむ様な笑みを浮かべて見せた佐藤
無意識なのだろう、そのクリームのついた指を舐めるとまた何事もなかったかのように食べ始める
本人は本当に無意識なのだろうが、三浦にはそれが少しばかり煽情的に見えてしまった
幼い仕草ばかり見てきたせいだろうか?
どうしてか、胸の内がざわついて落ち着かない
「……士郎君?」
ついその様に見入ってしまい、佐藤の呼ぶ声でハッと我に帰る
どうかしたのかと首をかしげてくる佐藤へ、三浦は只なんでもないを返した
「ごちそうさま。美味し、かった」
そのまま食事は進み、佐藤は両の手を合わす
ごみを取りあえず片付けると徐に立ち上がり
「いつも、ありがと。また、ね」
言い終わると同時に身を翻すと佐藤は三浦宅を後にしていた
三浦もまたを短く返し、その背を見送る
無意識に降っていたらしい手を何となしに眺めながら
自分たちの関係は一体何なのだろうかなどとふと考える
家族では当然ないし、友人という訳でもない
かといって見ず知らずの他人という訳でも今の状況ではいえない
本当に、不思議な間柄
「……何なんだろうな」
口に出してみたが当然分かる筈もない
分からないことをそのまま考えて見た処でどうしようもないと、三浦は取り敢えず考えることをやめ
始業の時間も差し迫っている為早々に家を出た
「……相っ変わらず時化た顔してんのね。三浦」
暫く走っていると背後からかけられた声
ゆるり向いてみれば其処に友人の姿が
明らかに呆れた様な表情を三浦へと向けてくる
「アンタさ、結局、本当の処あの子とどうなりたい訳?」
「は?」
突然のソレに何の事かを返せば、らしくないからと返された
「ちゃんと、ハッキリさせてあげなさいよ。中途半端って、一番タチ悪いから」
相手は言いたいことを一方的に言い放つとそのままその場を後に
後に残された三浦
暫くその場に立ち尽くし、そして髪を掻いて乱す
「分かるか。そんなもん」
容易に分かるものならばこんな風に悶々とはしていない
分からずに居るから、もどかしく苛立ってしまう
だが此処で一人苛立っていても何も解決はしない、と三浦は改めて走り出した
「……天気、良すぎだろ」
清々しく晴れ渡った空ですら今は腹立たしく
髪を更に掻き乱しながら、三浦は大学への道を急いだのだった……

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