《MUMEI》 嘘憑き。まずい。 新斗くんは今、精神的にとても傷ついていて、脆くなっている。 そんな状態でもしもの事を言われでもしたら………。 「すいません。私達、すぐに行かなきゃならないので」 「すぐ済むよ」 新斗くんの二の腕を掴み、控え室から去ろうと立たせたが、泉佐野生徒会長によって前を遮られた。 「あの!」 「佐久間くん。今日の君の演説………いや、演説ですらないな。あれは一体なんだ」 私の事を無視し、後ろにいる新斗くんにも聞こえるように話す。言葉の一つ一つに怒気が宿っている。 「今の君の様子を見ていれば、あれは君にとって誤算だったということはわかったがな。君の本気がこんなものではないこともな。だがな」 泉佐野生徒会長は私を押し退け、新斗くんの胸ぐらを掴んだ。 「私は君に失望したよ。たった一つの誤算でなんだあの体たらくは。誤算の一つや二つ、それをクリアしてこその生徒会なんだ。君はそれくらいやってのける男だと思っていたのだがな」 控え室にいる生徒全員の目が泉佐野生徒会長と新斗くんに注がれる。 皆、泉佐野生徒会長の言っていることが正しいと感じているからか、誰も仲介に入ろうとはしない。 だけど、私を除いたここにいる全員は、新斗くんの置かれている状況を知らない。 それは違います。新斗くんは今―――――――それを言えたら、この状況を変えることができるかもしれない。 だけどそれは、許されない。 「どうやら私の間違いだったようだ。言ったはずだよ、生徒会は甘くないと」 胸ぐらを離し、静かに小声で「…………以上だ」と呟いた。 ―――――――――ボクは…………―――――――――― ほんの一瞬だけ、新斗くんの心の中を感じた。 だけど、それはもうすでに真っ暗で、闇に染まりつつある。 微かな光がチカチカと点滅していた。 その光は、恐らく新斗くんの心の最後の柱。 これを崩壊させるわけには、いかない! 「退いてください!」 新斗くんの手を掴み、泉佐野生徒会長と埜嶋さんの横を強引に通る。 「―――――そつき」 埜嶋さんの呟いた声に新斗くんは反応し、ピタリと動きが止まった。 「新斗くん!?」 振り返ると、埜嶋さんは涙を流していた。 一瞬、私の行動が鈍った。 「させないって言ったじゃない…………必ず勝つって言ったじゃない…………負けないって言ったじゃない…………」 新斗くんと埜嶋さんは互いに背を向けながら埜嶋さんは一方的に話している。 「約束するって言ったじゃない!!」 体を震わせ、涙声で胸の内にあるものを叫んだ。 それの正体は、恐らく埜嶋さんにしか知り得ない。 これは、ダメ。 これ以上はほんとに新斗くんがダメになってしまう。 「埜嶋さん!やめるんだ!」 バン!!と扉を荒く開け、現れた薫くんが叫ぶ。 だけど――――――――― 「新斗君の嘘憑き!!!!!」 前へ |次へ |
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