《MUMEI》
暗転。
今日は走ってばかりの日だ、と考えている暇すらない。
何故新斗が突然苦しみだし、声を失ってしまったのか、小鳥遊晶の現象が関わっているに違いない。
いや、違う。僕はまだ何が起きているかなんて、本質はまったくわかってなどいない。
頭の片隅に疑問に思ったことがある。
新斗の身に起こる現象だけ、何故曖昧なのだろうか。
僕やミクちゃんや響介とは違う。
嘘を憑くと頭痛を発する。
言葉の喪失。
現象自体がはっきりしていない。
一体彼女は新斗をどうしたいのだろう。
「神名ぁ!廊下を走るな!」
「ごめんなさい!」
と言いつつも足は止まらない。
注意した先生のおかげで考えてもしょうがない疑問を終わらせることができた。
今は新斗の身の保護を最優先にだ。


「――――くそく――――――ない!」


控え室を発見し、見定める。
今の声は…………籠ったような声で内容はわからないが、埜嶋さんに違いない。
ぞくっ、と嫌な予感が体を一瞬硬直させた。
新斗と埜嶋さんは約束をしていた。
マズイ、マズイマズイマズイ!!
唇を噛み、硬直を解き、数メートルを全力で駆け、扉を思いきり開けた。
「埜嶋さん!やめるんだ!」
だが、僕の叫びは、ほんの少しだけ、遅かった。


「新斗君の嘘憑き!!!!」


暗転。
埜嶋さんの叫びは新斗の心だけでなく、世界をも崩壊させた。
突然暗闇に包まれ、そこには何も無くなり、次第に僕の意識も無くなっていく。
虚無の世界。
一体何が起きたのか、それを確かめる術はなく。
ただ消え行く意識の中、不敵に微笑む小鳥遊晶を見詰めるばかりだった。

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