《MUMEI》 樹の神様は弱弱しく呼吸していた。ひうひう、と時折呼吸音が聞こえる。きっと酸素を排出しているんだろうな、と僕は中学のときの理科の教科書をおもいだした。 さらに歩くと妙に薄汚れた男が立っていた。神様たちはみんな白い服をまとっていたが、その男だけは白い服が泥か何かで汚れて茶色に近かった。 ボサボサの短髪はすすけ、肌はよく日焼けし、筋肉質だった。 「あれは何の神様だと思う?」 パソコンの神様は言う。 「わからないな。農耕の神様とか?」 「残念。あれは宝石の神様なの」 僕は男をもう一度みた。どうみてもこの薄汚れて荒々しそうな男からルビーやサファイアといった宝石の類は連想しがたかった。 「宝石を採掘するのってすごく大変なのよ。発展途上国の薄暗い穴の中でとるんだから。ねぇ知ってる?宝石って地下にもぐらないと取れないけど、そのために発展途上国は手で穴を掘るのよ。そしてそこに体重の軽い子供を入れるの。いつ崩れるかわからない井戸のような洞窟で、子供たちが一生懸命土をバケツに入れるの。いつくずれるかもわからない洞窟でね。酸欠だってあるわ。死ぬ子供だって決して少なくはないわよ。彼はそんな子供たちを守っているうちにあんなふうになったの」 「なるほど」 「あなたがさっき言ってた農耕の神様なんて、チャラいものよ。こういってはなんだけど」 「そうなの?」 前へ |次へ |
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