《MUMEI》
異変。
カーテン越しから朝日を浴び、僕は静かに目を覚ました。
頭痛が酷く、額に手を添えた。
長い間寝ていてしまっていたような感覚。
だが、昨日は生徒会選挙の準備に追われ、睡眠時間で言えばいつもより短いはずだ。
鉛のように重い体を起こすと、もう学校に行かなければならない時間帯だったことに気づく。
「…………あれ、制服のまま寝たんだっけ」
寝起き直後や頭痛もあってか、まったく思い出せない。
特に何も考えず、多少急ぐように家を出た。
徐々に意識がはっきりしてきて、今日が生徒会選挙当日だったことを思い出した。
急ごうと走り出そうとしたが、思い返す。
僕の役目は終わった。あとは新斗自身が役目を果たす番だ。
新斗なら、きっと泉佐野生徒会長に勝てるだろう。
前向きに考えつつ、毎朝緋門善吉と待ち合わせている公園に着いた。
いつもならもういる善吉だが、今日は珍しく不在。
登校時刻にも多少余裕はある。
しょーがない。待とう。
―――――――と、意気込んで十五分。
善吉は一向に来る気配がない。
「あんにゃろう………。次会ったら牛丼メガ盛りじゃすまねえぞ」
痺れを切らし、リミッターが発動し、『俺人格』が出てくる始末。
善吉の財布の中身に未来はあるだろうか。
そろそろ急がなければ間に合わない頃になり、善吉を見捨てて学校へ歩く。
しばらく歩くと、とても見覚えのある後ろ姿が見えた。
あれは、緋門善吉だ。
「あいつ………!!」
『俺』はすっかりご立腹で、姿が見えた瞬間には突撃していた。
……………………………んん?
ドロップキックを繰り出す直前にキキーッと粉塵を撒き散らしなから急停止した。
「んん…………?あれは本当に善吉か?」
野球部と言うには髪が長く、金色に染めていた。ダボダボとしたズボンを履き、指や耳には金属具が付けられていた。
端的に言うと、グレていた。
「えっ?ちょ…………はあ?」
こんなことは善吉にはあり得ない。
普段の善吉は先生に怒られるからとワイシャツをきちんと第一ボタンまで止め、ズボンに裾を入れるチキンだと言うのに。
あんな教育指導対象の塊に成り下がるなど、あり得ない。
「これは………何が起こってるんだ」
呟いたところで、答えは返ってなどこなかった。

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