《MUMEI》
あり得ない。
学校までの道のりがやけに長く感じた。
相対性理論に基づくと、今この時間は僕にとって苦痛なものなのだろう。
僕もそう思う。
しかし、時間は長く感じたとしても、着いてしまう。
いつもの学校だと言うのに、異質なオーラを感じる。
いやもう、とことん僕を追い詰めてくるな。
「ひゅーはぁー」
軽く深呼吸を済ませたところで。
さあ
「殴り込みじゃあ!!」
…………はい、言ってみたかっただけです。




校門前には、生徒会と風紀委員が共同で行う抜き打ち服装検査が行われていた。
いつもなら舌打ちとブーイングの嵐の中の一人だったが、今回に限り「ラッキー」と呟いてしまう。
生徒会には副会長の佐久間新斗がいる。
新斗もにもわからないことはある。
だけど、頭の片隅にどうしても、新斗なら…………という願望が蠢く。
早くこの異質を解消させたい。
その気持ちが強くなり、小走りになった。
「あーらとー!」
呼び、手を振りながら走る。
ぴくりとも反応しないが、不意にこちらにくるりと振り返った。
そのわずかなタイムラグに何も気付かず、新斗を見た僕はつい足を止めてしまった。
「――――――――新斗」
友人の名前を呟く。
衝撃的だった。
ぞわりと身震いさえも発生する。
だって、これは、あり得ない。
新斗が……………………
新斗が屈託のない満面な笑顔を振り撒いているなんて………!!

「あはははははははははは!!」

ついお腹を抱えて大笑いしてしまった。
いやだって、新斗がそんなことあり得ないじゃん!
いつも仏頂面で、クールぶってて、ムッツリな新斗とは……………あり………得…………ない…………?
あり得ない。
こんな新斗、あり得ない。
またも頭が痛む。
脳髄から来るような、慣れない痛み。
映し出された光景は
苦しむ新斗
叫ぶ埜嶋さん
フラッシュバックだ。
今のも見覚えのない記憶。
一体これは…………
「新斗……………」
新斗の笑みは堪えない。
異質だ。
この世界は、異質だ。

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