《MUMEI》

「大丈夫ですか」

大男の肩をもむ中の一人に、色白でほっそりとした穏やかな顔つきの女性がいた。他の神様よりも尚美しく、控えめで、なんとも優しいオーラを放っている。
あれが平和の神なのだろうか。
大男となにやら真剣な顔で話しているのは、ひょっとすると戦争をやめるように話しているのかもしれない。
僕は心の底で彼女を応援するとともに、あの大男が憎らしく思えてきた。

「あれが戦争の神様か?何てイヤなヤツだ」

僕はパソコンの神にたずねる。
するとパソコンの神はあきれたように言う。

「あなた何いってるの。あの方は平和の神様よ」

「だってあんなに荒々しくて汚らしいじゃないか」

「わかってないのねぇ。あの方はね、私たちの中でも一番苦労なさってるのよ。どうにかして世界に平和をもたらそうと、あちこちでがんばっているの。ほとんどずっと働いているわ。何でもみんながいやがる平和の神様という役職をすすんで引き受けたらしいわよ。私が生まれる前からのことだから知らないけど。毎日毎日、世界のあちこちで紛争を収めたり戦争になりそうなのをとどめたりするのに忙しいから、そりゃあ言動も荒々しくなるわよ。でもね、それって人間のせいよ。あの人があんなにがんばっているのに、人間ときたらすぐにあちこちで争いをはじめてしまうんだもの。あの方は戦争をやめさせるそのかたわらで核の神様もいさめなくちゃならないし、とても大変なの」

「そうなのか」

「そうよ。あの人は一番尊敬されているわ。他にもイヤな役を引き受けた人はいるけれど。たとえばトイレの神様とかね。でもトイレは今すごく発達してるし、苦労もないでしょう。だから今一番苦労しているのは平和の神様ってわけよ」

「じゃあ、あそこにいる神様は・・・」

「あっちが戦争の神様ね。できるだけおだやかにして、戦争がおきないようにしてるの。本当にやさしい人よ。自分を一生懸命拘束してるの」

僕はしばらく神々の様子を眺めていた。

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