《MUMEI》
誤解。
「元の世界に……………かえす?」
かえすとは、どういうことだ?帰る、ではなく?そもそも文法おかしくないか?どうでもいいことかもしれないけど。
咄嗟に小鳥遊晶から離れた。
小鳥遊晶は僕の頭を撫でていた右手の行き場所がなくなったのか、ぷらぷら手を振った後腰に手をあてた。
「還す、さ。まぁ別に帰るでも構わないけどね。ただの言葉遊びさ」
神妙な表情は消え、いつものような、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「………………」
正直に言えば、信用ならない。
こんなことになったのは他でもない、小鳥遊晶のせいだ。
その元凶が何故、僕に助け船を出す?
何かを、企んでる…………?
「あぁそっか。まずそこの誤解を解かなきゃね。あと、この世界のことも話さなきゃ」
「誤解?この世界のこと…………?」
どこに誤解があるんだ。
この世界のことなんか、聞きたくもない。
「そんなことはどうでもいいから………僕を早く帰してくれ」
「それはできない。今帰っても、何も変わらないよ」
「あんたの言ってることが全く理解できないんだよ!」
痺れを切らす。
小鳥遊晶の言うこと全てが虚ろで、実体がないような気がしてしまう。
それはまるで、今の僕のようで
「はいストップ。これ以上余計なこと考えていると、消えちゃうよ」
そう言って小鳥遊晶は僕に近づき、僕の額に手をかざした。
「パニックになっても困るし、本当はちょっとずつ思い出させてあげようと思ってたけど、今とそうたいして変わらないかもしれないから、手っ取り早くいくね」
その時、頭の中がかき混ぜられていく感覚に見舞われた。
近い過去から、遥か遠い過去まで、次々と映像として映し出され、その直後に感情が押し寄せる。
こんなもの、とてもじゃないが立っていられる気がしない。
吐き気にも似たような、溢れ出る感情と記憶。
それを超えた時、全てが繋がった。
僕達は生徒会選挙の手伝いをした。
でも、その結果、新斗は落選した。
僕達は、何も出来ずに……………。
その直後、埜嶋さんから嘘憑きというトラウマをほじくり返されたと思ったら、
「こんな……………ことに」
「そう。佐久間新斗はね、ついに心が壊れてしまったんだよ。あの一言でさ」
新斗が…………壊れた……?
そんな、あいつはそんな弱く
「弱いよ。彼は他の誰よりも心が弱い。だから自分には無茶で不釣り合いなことをした」
不釣り合い…………約束……………
「とりあえず思い出したことだし、本題に入ろうか。まずは誤解から解いておこうかな。君は佐久間新斗の身に何が起こったか、わかるかい?」
「…………嘘を憑くと拒否反応が出る。これは推測だけど…………声も出せなくなる」
「それが誤解さ」
「……………どういうことだよ」



「ワタシは佐久間新斗に対して何もしていないってことさ」

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