《MUMEI》
入部
畳の匂い、そして代々先輩たちが流してきた汗、涙。それらが染み付いた部室の匂い。僕はその匂いが大好きだ。そして···

「1.2.3.せっドン!」そんな声が響き渡る、この薄暗い部室こそが、僕が所属する新白高校の和太鼓部だ。小さいときに母に連れて来てもらった新白高校の文化祭でお兄さん、お姉さん達が叩いているのを見て、幼稚園のときに入学を決めた。···っていうと、格好いいけどただ、高校入学を目前にして何もやる気がわかなかった僕に、母が出した提案だった。小さかった僕は、ケンタッキーのクリスマスバケツ逆さまにして祖父につくってもらったバチでいつまでも叩く真似をしていたという。そんな姿を見ていた母は、普段は周りの家に迷惑だと言って怒る母が、その時だけは嬉しかったのか、怒られなかった。

そんなこんなあって新白高校に入学したが、結局やる気がでないまま、ズルズルと過ごしていた。
「グルメサイエンス部でーす。入りませんか?」
「書道部でーすでーす。」
「和太鼓部はどうですか?」

(ん?和太鼓?)

そのとき僕は、あの頃、小さかった時、母に連れて行ってもらった、あの瞬間を思い出していた。



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