《MUMEI》 佐久間新斗の世界。まったく違和感が無かったわけじゃなかった。 新斗に起こった現象が曖昧だったこと。 小鳥遊晶の狙いを掴みきれないこと。 情報が少なかったから、どうしようもなかったのかもしれない。 わかるわけがない。 混乱している頭で、ここまで考えて、思考を放棄した。 「意味わかんないよっ!!」 叫ぶ。 小鳥遊晶は冷静に僕を見下すような目で見る。 「新斗が望んだ世界とか弾かれたとか何言ってるのささ!スケールデカくするなよ!余計意味がわからないんだよ!!」 新斗が望んだ世界……………。 心当たりは、あった。 新斗に初めて会った時に感じたこと。 新斗は自分のことを自虐的に揶揄することが多々あった。 そのくせ他人から傷つけられることを怖がっていた。 あぁ、そうか。 佐久間新斗という男は、大袈裟に言ってしまうと、自分を含めて世界のことを嫌っているのだろう、と思った。 その時にこの現象が起こっていたら、どんなことになっていたか想像すらできない。 でも、新斗は変わった。 大事なもの、失いたくないものだってできたんだ。 嘘に罪悪感を覚え、苦悩していた。 そうか。 ここの世界の新斗は、新斗の理想像なんだ。 みんなに笑顔で、みんなに好かれて、優しく、嘘の憑かない佐久間新斗。 それが、佐久間新斗の望んだ世界なのか。 「そして、この世界の正体は佐久間新斗が生まれてから今まで一度も嘘を憑かなかった世界。佐久間新斗が嘘を憑いた事で起こったあらゆる事象を否定したことにより、未来が大きく変わってしまったんだよ」 「未来が…………」 緋門善吉がグレていたのも、この世界で何らかの嘘を憑かなかったから、変わってしまったのかもしれない。 つまり、僕がこの世界に弾かれたということは。 新斗が嘘を憑かなかったことにより、僕はこの世界では死亡したということなんだろう。 過去を変えれば、未来が変わる。 そんなこと、小説や漫画でわかりきっていると思っていた。 それを体験して、思い知った。 無慈悲だ。 僕は生きている。 それは紛れもなく事実だというのに。 嘘を憑かなかった、たったそれだけで人は死ぬのか。 「嘘だろ………」 こんなにも嘘であってくれと懇願したことはない。 だけど、これも紛れもない事実であり、真実なんだ。 前へ |次へ |
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