《MUMEI》
作戦。
「佐久間新斗を襲った現象の正体、それは佐久間新斗自身が生み出した現象だったんだ。彼は嘘を憑く度に心を痛めていた。この事は知っているだろう?その迷いと罪悪感が自分で現象という『まやかし』を作り出してしまったんだ。悪く言えば、被害妄想さ」
「……………この世界はなんだっていうの」
「正直、このタイミングで佐久間新斗の心が壊れてしまうのは想定外だった。ワタシとしてもこんな結末は不本意でね。だから救済のためにこの世界を作り出したんだ」
「結局君が作った世界なんじゃないか」
「まあね。ここで想定外がもう一つ。ワタシはただ何も変わらない、過去に遡るつもりだった。でも佐久間新斗を媒体として使ったからなのか、過去に遡るのではなく、世界を作り替えてしまったんだ。佐久間新斗の望んだ世界にね」
「もうちんぷんかんぷんだよ」
「…………君はもう少し勉強というものをした方がいいだろうね。つまり、心が壊れる前に戻そうと佐久間新斗に接触したら、思いの外理想を望む心が強かったために過去に戻るどころか全く違う世界が出来上がってしまったわけだよ」
「う、うううん」
「悪いけど、これ以上譲歩はしないよ。とりあえず、君はこの世界で絶望していたけれど、それは間違いだよ。逆に君は希望なんだ」
「希望だって…………?」
「そうさ。この世界に弾かれた君だから出来ることがある。ようやく本題に入れて安心したよ。君はこれから佐久間新斗に接触してもらう」
「接触って…………俺は人に触れないし会話もできないんだけど」
「そこはワタシに任せてよ」
「接触して、なにをすればいいの」
「本物の佐久間新斗を叩き起こしてほしいのさ。元の世界に還すにしても、媒体とした前の世界の佐久間新斗の因子が無ければ還せないのさ」
「君結構無茶言ってるの気付いてる?本物の新斗とか前の世界の新斗とかよくわからなくなったきた!」
「はあ…………。詳細はとりあえず省くよ。今は佐久間新斗に接触することを考えてくれていい」
「わかった。他になにかすることは?」
「接触は佐久間新斗が就寝してから。それまではすることないから適当に暇を潰しててよ」
「寝込みを狙うの!?」
「なにか如何わしい想像しているのかい?君達は男同士なんだから気にならないだろう」
「う、うん。まぁ、そうなんだけどね」
「煮え切らないね。まぁいいさ、君はその目に焼き付けておくといい。前の世界とこの世界の違いをさ」

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