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《MUMEI》 ｢去年の受賞者はどういうのか聞いてみるか？｣ 顧問がコンクールの施設で販売されている上位入賞者ＣＤの朗読部門を流す。 ｢せんせー！やめて！｣ 七生が騒ぐ。生で読んでくれてもいいのに。 ｢静かに。｣ 顧問に注意された。 静かに朗読を聞く。パラパラ話していたけれど七生の所で会話が途切れる。 怪訝な顔をして背もたれに寄り掛かっていた神部もいつの間にか重心を前に顎を手で支えながら聞いている。何を思ったかは口元が隠れていたので読み取れなかったが真剣なのは確かだった。 七生は人に聞かせる読み方が出来る。昔から脈絡の無い話なのに耳を傾けてしまった。 やっぱり七生の声は良い。高音は歌うように低音は響くように染み入ってくる。耳に触れてくるようにそっと語りかけたり圧倒的に聴覚を支配したり。 七生の声が溢れてくる。この鮮やかさ、この清流は俺のもの。 ｢あーあ。ウチ先輩、声だけなら超かっこいーのに。｣ ｢うるせーいびるぞ高遠！｣ 確かに性格は荒っぽいかもね。今も高遠に掴みかかっているし。 ｢５時になるので帰りますね。｣ 神部は素早く鞄を持って教室から出た。 ｢神部君、考えといて！｣ 廊下に向かう彼に思い切って伝えてみても歩きながら振り向いただけで、 ｢一応は。｣ の一言だった。 反応もイマイチ。 ｢神部ちゃん絶対独りっ子ですよ。ウチ先輩と同じ自己中ぽいとこありますよね？｣ 高遠が顔を扉から半分出して言う。 七生はそこまで酷くはないよ……多分。 つーか高遠便乗して帰ろうとしてるだろ！ ｢ホラ、ドキュメントの映像が出来るまでを説明するから席について。｣ 前へ |次へ |
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