《MUMEI》

水を汲み終わり、河原を上がろうとした時だった。カノンのものではない異様な気配を察知したルシアは周辺を見回す。カノンも同じく何か感じたようで、辺りをキョロキョロしていた。

茂みから突然、狼型の魔物が現れた。中級にあたるワーウルフなるもので、カノンの召喚する下級のものでは時間稼ぎにしかならないのは一目瞭然だった。滅多にこんな所に魔物など現れないため、2人は動揺した。

「ルシアくん!時間稼ぎは任せて…ここから10分のとこに村があったはずだから、そこで守備隊の人呼んできてくれないかな」

カノンが召喚で喚び出したのはキノーノコという…簡単に言えばキノコである。胞子を使い足止めするのに適したものには間違いないが、ワーウルフに対して効果があるかは分からなかった。

カノンとキノーノコが耐えれる保証はない。ルシアは迷ったが一か八か召喚を試みた。養成所で習ったことを、復唱しつつ構える。

「精神を落ち着かせて…祈る。門が開くのをイメージして……」

すぅ、と大きく息を吸う。カノンが戦っているのをひどく遠くに感じた。

「開け、異世界の門よ。我は世界を繋ぐ者なり。」

それが初めて喚び出すときに必要な呪文のようなものだ。何度も何度も繰り返しても応えてくれることはなかった。しかし、今回はすごく手応えを感じた。



金属の擦れるような音が鳴り響き、金色に輝く門が現れる。隙間からは虹色の光が絶え間なく漏れ出していた。
カノンはおろか、ワーウルフさえ呆然とその状況を見ていた。

中から現れたのは大きな白銀の翼を持ち、光の剣をいくつも浮かせた青年の騎士だった。白く長い髪は宝石のあしらわれた髪留めで結ばれ、気品に満ちあふれていた。
そして一同が驚いたのは低級、中級、上級とあるランクの更に上、トップクラスの召喚士しか喚び出せないとされた最上級のものだったこと。ワーウルフは不利を悟り、逃げ出した。

召喚で体力を使い果たしたルシアはその場に座り込む。ランクが高いほど消耗する体力は多いのである。

「大丈夫ですか?主君…?」

騎士はルシアの横に片膝をつき、顔を覗きこむ。疲れ切ったルシアの顔を見るとルシアを抱えカノンの元へと移動する。ルシアが抵抗するのもお構いなしだ。ルシアとカノンの行き先が同じと知ると両脇に1人ずつ抱える。

「ご無礼をお許しください。これが最短の策かと…。」



騎士は大きな翼をはためかせ空を舞う。カノンの道案内のもとあっという間に村に到着した。村人が皆一様に唖然とした顔で出迎えることになるのは言うまでもなかった。






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