《MUMEI》

ヒトが群を成す、その中央だった
「・・・・・・と、鳥が来た!こ、殺せ。殺せ!」
「・・・・・・殺されるのは、あなた達よ」
向けられる敵意に少女が返すのは同じく敵意
唯違うのは、少女のそれは驚く程穏やかなそれだという事
その様にヒトが僅かにたじろいた、次の瞬間
少女の傍らにいた山雀の姿が、消えた
一瞬の事でヒトがざわつけば直後
そこに居た大量のヒトの首が弾ける様に飛んでいった
動揺にざわついていた群衆の声は一変、阿鼻叫喚のそれに変わる
逃げ惑う者、泣き叫ぶ者、助けてくれと希う者
その人間全てへ慈悲を欠片も見せる事無く、山雀はその首を喰い千切っていった
「……愚かしい人の生など捨てて、私の(子)に、なりなさい」
脚元に散らばる頭部を拾い上げ、その胸に抱き
血に汚れる事など構いもせず、一つずつ地面に叩きつけては砕く事を始める
割り続けてちょうど六つめで、その手が止まった
「・・・・・・これで、いい。これで、全て終わる」
砕いた骨を蒔いてやれば何処からともなく鳴く声が聞こえ
ひび割れた様な闇が完璧に砕け散った
「待っていたわ。私の、ナナツノコ」
現れたのは、六羽の鳥
それらが一斉に山雀の周りへと集まる事を始める
「全て、壊してきて。その後は、好きににして構わないから」
少女のその声を合図に山雀以外の以外の六羽が一斉に散っていった
その様を見送ると、少女は未だざわつくばかりの群衆へと向いて直り
「……山雀。終って」
前方へと手を差し出した
全てを終わらせる、終焉への導きの手
山雀はその指先へと口づける様に嘴を触れさせると、鳴く声を高々と上げ羽根を広げた
改めて辺り一面へと広がる黒
だがそれは先の黒と葉明らかに異質なそれで
まるで食むかの様にヒトを飲み込み始める
どろりどろり
音も無く只ゆっくりとヒトを食み、そして全ての人間を飲み込んだ
ヒトは最後の子ぺを上げる事も出来ないまま、後に残ったのは只静寂のみ
「……山雀、もういいわ」
辺りを見回し、少女が一人言に呟けば
広がった一面の黒は生き物の様に蠢く事をはじめ、そして徐に影は薄れて逝く
漸くその全てが消え、後に残ったのはたった一羽の鳥
山雀であろうその鳥を、少女はその手で掬い上げてやっていた
「……ヒトは、突然に現れ、長くこの世界を独占しすぎた。だから――」
もう、充分だろう
山雀の羽根を柔らかく梳いてやりながら少女は憂う様に呟く
そして徐に身を翻す事をすると、その場を後にしたのだった……

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