《MUMEI》
4
 「また、見に行ってたのか?」
ヒトという存在を失って静けさを取り戻した世界
そこに唯一本立つ巨木
その頂きに、山雀の姿はあった
どこかへ出掛けていたらしい少女へと僅かに苦笑を浮かべながら言ってやれば
少女はゆるりと山雀へと向いて直る
「・・・・・・猿みたいな生き物が、二匹いたわ」
「そうか」
「・・・・・・ヒトはまたいずれ生まれる。何故、世界はヒトにばかり寛容なの」
若干ふて腐った様に呟き、少女は山雀の傍らへと膝を抱えた
その様に、山雀はまた苦笑を浮かべながら同じ様に腰を下ろす
「人間は、馬鹿ばっかだからな」
「……馬鹿なら、いらない」
僅かに頬を膨らませ更にふて腐ってしまった少女
山雀はやれやれと肩を落とすと、少女の身体を背後から抱き締めた
「・・・・・・身体は、平気?まだ、痛む?」
その腕に浅くはない傷を幾つも見つけ、少女がその傷に手を添えさせる
これは自分が負わせた傷だ、と表情が曇ったのを山雀は見逃さなかった
少女の頭に手を置き、そして髪をすいてやりながら大丈夫を返してやる
「・・・・・・山雀、今何考えてる?」
その手が気持ちいいのか、少女はされるがまま山雀へ問う事をする
だが山雀ひはその問いかけに答える事はせず、唯少女の髪をすくばかりだ
今はまだ、何を考える事も必要ない様な気がして
山雀は深く息を吐き、そのまま眼を閉じる
寝るのか、との少女からの問いに山雀はその身体を抱き返した
その山雀の様に少女は僅かに笑みを浮かべ
今だけは甘やかしてやろう、と山雀に横になる様促す
「珍しいな。どうした?」
「別に。いいから早く寝なさい」
少女の手が更に寝を促す様に山雀の眼を覆った
半ば強制的なソレに、だが山雀は何を言う事もせずされるがままだ
「……なら、少し寝るわ」
この親鳥の腕の中ならば穏やかに眠る事が出来そうだ、と
山雀はゆるり寝に入っていった
すぐに穏やかな寝息を立て始める山雀へ
少女はフッと表情を和らげると、山雀の髪を梳いてやりながら
「……ありがとう。また、手を借りる事に鳴るかもしれないけれど、その時は――」
宜しく頼む、と続けてやる代わりに少女から山雀への口付け
啄む様なソレに、寝の中に居る筈の山雀の表情が緩く綻んだのだった……

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