《MUMEI》

町外れの誰もこない様な廃墟地域。たまに行商人が通る程度だ。


カノンがぼんやりと空を眺めている時だった。遠くで悲鳴が聞こえる。何事かと思い付近を見回していると、怪我を負った行商人が数人逃げてきた。

「守衛を呼んでくれ!ダイアウルフだ!!」

ダイアウルフ。逃げてきた行商人が確かにそう言った。以前戦ったワーウルフよりも数段格上の上級モンスターだ。

「ダイアウルフ…」

攻撃特化の個体は、同じ上級召喚獣でも押し切れないことがある。最上級を召喚できるのはこの町にルシアとラフェル以外いないのだが、カノンはラフェルについては知らない。

「私が止めます!」

カノンが駆け出す。ほんの少しだけでも時間稼ぎになれば…。時間さえあればさっきの行商人たちが援軍を呼んでくれる。町の中に入れるわけにはいかない。

「お願い、開いて!」

最上級…その門を開くのは天性の能力が必要だ。ルシアは次々と最上級の門を開いた。自分にはそんな力がないのかもしれない。けれど、やるしかない。

「お願い…!」 

眩い光が付近に溢れ黒い門が現れ、ギギギと鈍い音が響かせながら開く。中から姿を現したのは1人と1匹。黒い鎧の青年と純白のドラゴン。

カノンたちが到着すると、ダイアウルフは積み荷の果実を漁っていた。

青年の持つ身の丈ほどの大剣が一気に伸びて地面ごとダイアウルフを両断する。大型の個体でも斬れそうなサイズにまで伸びた剣が、また一瞬で元のサイズに戻る。明らかな能力の差、最上級に間違いない。




驚きのあまりへたり込んでいたカノンの前に青年が歩み寄る。

「【竜騎士】レアン。こいつが非常食のドラゴン。こんなとこに座ってたら汚れるぞ。」

レアンはカノンの腕を引き、立ち上がらせる。ドラゴンの方はというと、ダイアウルフが漁っていた積み荷の果実をバクバクと食べている。悪口には気にしていないのか…気づいていないのか分からないが、ノーリアクションだ。

「おい、ジン…それ食って大丈夫かよ…」

「落ちてるからいいんじゃないのー?」

ドラゴンの方はジンと言うらしい。どこか抜けているようだ。




しばらくして町の守衛と行商人が駆けつけた。積み荷のことは不問にされカノンは寮へと戻る。新たな召喚獣を従えて。





前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫