《MUMEI》

ティアラは無我夢中で、男の手から逃れようともがいた。

しかし、女のティアラが男二人から逃げおおせるはずもない。

 捕まえられていた手首は今まで以上にきつく戒められた。

 『これ以上暴れるつもりなら、二度と暴れられないような体にしてやるぞ』と脅されれば、恐怖でどうにかなってしまいそうになる。

 いや…助けて、誰か――…ジーク!

ティアラがぎゅっと目を瞑った、その瞬間。

「うぉ!」
「ぎゃッ!!」

二人の男がほぼ同時に叫び声をあげて倒れた。

支えを失ってなすすべなくその場で転びそうになったティアラは、力強い腕に抱き留められる。

「…ティアラ」

慣れた声に名を呼ばれ、ティアラは恐る恐る目を開けた。

「ジーク……っ」

 足の力が抜けて、ずるずると座り込む。

ほとりと、頬をつたった涙が衣服の膝に落ちる。

「う……」

 一緒にしゃがんでくれるジークに情けない泣き顔を見られないよう、うつむいて自分の涙が衣服の布地に吸い込まれていくのを眺めながら、声をころす。

「すまない……」

 俺がどっちつかずな態度なばっかりに――

 後の方は言葉にならなかった。

それでも、どこまでもやさしいジークの言葉にティアラは余計泣けてきた。



やはり、先程のジークには何かあったのだ。

彼は、つい最近知り合ったばかりの、勝手に宿を飛び出すようなどうしようもない娘をも気にかけてくれる、やさしい人だった。



「もう、大丈夫よ……」

ひとしきり恐怖を吐き出したティアラは、すっきりした気持ちで言った。

「立てるか?」

ジークの心遣いが嬉しくて、自分でも意識せず、艶やかな笑みを浮かべる。

「ええ……ありがと、ジーク」

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