《MUMEI》 1ページ窓の外で雨音がする。 冬の朝には辛い。 寒さに耐えながら登校する。 中学三年生、冬。 受験が無事に終わり、第一志望の高校に進学することが決まった。 浅野葵。15歳。 出席番号は必ず1番。 この名前で、今まで後ろになったことはない。 到着した学校には、もう親友がいた。 「おはよ〜、葵」 「おはよ、宇多子」 親友、古田宇多子と挨拶を交わす。 何気ない日常。 私の毎日はほんとに普通だ。 「昨日の見た?あのドラマがほんとにー・・・」 宇多子の声が反復して聞こえた。 …来てる。 叫びだしそうな気持ちを抑えて、小声で宇多子に話しかける。 「多野くん来てるっ」 「あ、ほんとだ。良かったじゃん」 多野くんとは、多野悠人くん。私の、好きな人。 不定期登校。つまりは若干不登校気味なのだ。 学校に来れば友達と笑い合い、授業中は寝ている。 なぜ来ないのかわからない。 一度きいたことがある。 “めんどくさいわけじゃないよ”って。彼は言った。 どうしてなんだろう。 何か、あったのかな。 “あったのはあったよ。だいぶ前から。” 何があったのかな。 いつも多野くんのことで頭がいっぱいで。 時にはメッセージアプリを使って話すことも。 直接話すなんてことはない。 けれど、多野くんからメッセージを送ってくれることもある。 それだけで幸せに思えた。 来てくれるなんて、思ってもなかった。 * 私が多野くんを好きになったのはたぶん5月。 進級して1か月。まだなかなか馴染まないクラスは静かだった。 私は多野くんと話すことなんてなかったし、特別関わりも持っていなかった。 最初はただの好奇心。 “多野悠人” 名前は聞いたことがあるけど初めて顔を見る。 クラスが違ったから何も知らなくて。 こんな人だったんだって知って。 メッセージアプリでは友達になっていた私たち。 話しかけてみたんだ。 “今さらだけど、同じクラスの浅野です。よろしくお願いします!誰かわかる?(笑)” “わかるよ(笑)一番前の席の人。よろしく” それからたった少しの会話をする。 特別なことなんて、何一つなかったのに。 学校来てないなって、いつからか思い始めて。 なんでだろう。元気かな。大丈夫かな。 会いたいな。 私、好きだな。 目で追いかけて、笑った顔にキュンとして。 他のことなんて手につかないくらいに、想いは膨らんでいった。 日にちを空けながらメッセージを送って。多野くんから来たりとか。 何気ない話をするのが楽しくて、どんどん引き込まれていった。 何ヵ月も変わらない関係。 それでも変わらず好きで、メッセージのやりとりをする。 それから友達から話を聞くようになった。 一年生のときから不登校気味だったことを知りました。 もっともっと多野くんのことが知りたくて、忘れられなくなって。 何ヵ月も経っていた。 * 最近は来てなくて、会えないことが当たり前だった。 それが今日。変わった。 意味もなく教室内を歩き回ったり、近くにいると少し大きな声で喋ったり。 何か変わらないかなって思ってた。 期待、してたんだ。 |
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