《MUMEI》
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窓の外で雨音がする。
冬の朝には辛い。

寒さに耐えながら登校する。

中学三年生、冬。
受験が無事に終わり、第一志望の高校に進学することが決まった。

浅野葵。15歳。
出席番号は必ず1番。
この名前で、今まで後ろになったことはない。


到着した学校には、もう親友がいた。

「おはよ〜、葵」
「おはよ、宇多子」

親友、古田宇多子と挨拶を交わす。
何気ない日常。
私の毎日はほんとに普通だ。



「昨日の見た?あのドラマがほんとにー・・・」

宇多子の声が反復して聞こえた。


…来てる。

叫びだしそうな気持ちを抑えて、小声で宇多子に話しかける。
「多野くん来てるっ」
「あ、ほんとだ。良かったじゃん」

多野くんとは、多野悠人くん。私の、好きな人。
不定期登校。つまりは若干不登校気味なのだ。

学校に来れば友達と笑い合い、授業中は寝ている。
なぜ来ないのかわからない。
一度きいたことがある。

“めんどくさいわけじゃないよ”って。彼は言った。

どうしてなんだろう。
何か、あったのかな。

“あったのはあったよ。だいぶ前から。”

何があったのかな。
いつも多野くんのことで頭がいっぱいで。
時にはメッセージアプリを使って話すことも。

直接話すなんてことはない。
けれど、多野くんからメッセージを送ってくれることもある。
それだけで幸せに思えた。

来てくれるなんて、思ってもなかった。





私が多野くんを好きになったのはたぶん5月。
進級して1か月。まだなかなか馴染まないクラスは静かだった。

私は多野くんと話すことなんてなかったし、特別関わりも持っていなかった。

最初はただの好奇心。
“多野悠人” 名前は聞いたことがあるけど初めて顔を見る。
クラスが違ったから何も知らなくて。
こんな人だったんだって知って。
メッセージアプリでは友達になっていた私たち。
話しかけてみたんだ。

“今さらだけど、同じクラスの浅野です。よろしくお願いします!誰かわかる?(笑)”

“わかるよ(笑)一番前の席の人。よろしく”

それからたった少しの会話をする。
特別なことなんて、何一つなかったのに。


学校来てないなって、いつからか思い始めて。
なんでだろう。元気かな。大丈夫かな。

会いたいな。
私、好きだな。

目で追いかけて、笑った顔にキュンとして。
他のことなんて手につかないくらいに、想いは膨らんでいった。

日にちを空けながらメッセージを送って。多野くんから来たりとか。
何気ない話をするのが楽しくて、どんどん引き込まれていった。

何ヵ月も変わらない関係。
それでも変わらず好きで、メッセージのやりとりをする。

それから友達から話を聞くようになった。
一年生のときから不登校気味だったことを知りました。
もっともっと多野くんのことが知りたくて、忘れられなくなって。

何ヵ月も経っていた。





最近は来てなくて、会えないことが当たり前だった。
それが今日。変わった。
意味もなく教室内を歩き回ったり、近くにいると少し大きな声で喋ったり。
何か変わらないかなって思ってた。

期待、してたんだ。



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