《MUMEI》
介さず
「馬鹿でも気が付いたか」
暗闇の小さな橋の下でアラタは佇んでいた。仄に人工の光が彼の表皮に映る。
機械仕掛けのようだった。


臑を蹴られ、爪先に付着させられたガムの包みにメモが入っていた。



 『スバル橋下 ハチジ』



ぐちゃぐちゃに書かれていて、ハチジが読みにくかった。わざとかもしれない。

スバルはパチンコ屋の名前である。数年前潰れてからは買手どころか誰も近付かない。その付近の橋は道幅も狭く、滅多に車が通らないのをいいことに深夜は走り屋が跋扈して事故が絶えなかった。
昼間も涼しく不気味な暗さを醸し出し怪奇スポットとして名を馳せ花や供え物が置いてある。
スバル橋は死の象徴として恐れられていた。


「万が一を考えてお前は話すな」
樹を制止する。


「これの意味解るよな、一人でだ。」
アラタは樹を突き飛ばしわずかに足が揺らいだ隙に消えていた。
樹のポケットにはちぎれた紙切れが散らばっていた。







部屋のベッドの上でポケットの中の紙を広げた。番号が振られている。紙切れををパズルのように一枚一枚並べた。ノート1頁に綴った文章が現れた。



不安定な場所で書いたのだろう、文字が震えている。



[付近で変死体が発見された、恐らくは田畑若菜が犯人であろうと推測され、その証拠を探している。
近くの公園で首のない死体が発見されたときは田畑若菜はどうしていた?
お前は疑っていたはずだ、手首の痕は見たか。あれは食べてはいけないもの、田畑若菜の行動に矛盾点はなかったか。何か大事な言葉を言ってなかったか。]

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