《MUMEI》

フェッセン征空団での暮らしが始まり、はや数週間。初めは飛行船での行動が主になる生活にも慣れてきた頃。ルシアは初めて依頼を任されることになった。それまでは征空団のメンバーの手伝いに行くことはあったものの、本格的な依頼はなかったのだ。


団長室に呼び出されたルシア。隣には同じく呼び出されたであろう、竪琴の名手、クロウが眠そうに目を擦っていた。

「クロウはまーた徹夜したなぁ?」

「はぁ、すいません。」

案の定、徹夜したらしい。竪琴の微調整に手間取ったそうだ。

「んで、ルシアとクロウにはこれ、やって欲しいねんけど。」

依頼は王都のある大陸からは離れた、マニエッサ群島に現れた小飛竜の群れの掃討。フェッセン征空団には母艦となる船のほかに、小型艇が4つある。その中の1つを使っていいとのことだ。

「…わかりました。ふぁ、今日は寝ていいですか」

「あー、ごめんな。明日出てもらうから、準備よろしくな。」

クレッセルが頼むでー、と2人を見送った。退室したあともクロウは眠たそうにしている。

「えーと、よろしくお願いします。」

ルシアが団長室から少し離れた廊下で、深々とお辞儀をする。クロウは目を見開いて驚いた様子を見せた。

「よ、よしてよ。あんまりそういうの慣れてないからっ!…っと、どうしていいかわからない…。」

あたふたしているクロウ。動揺具合から見て本当に慣れていないようだ。

「タメ口でいいよ。クロウって呼び捨てで…。明日…よろしくね。ルシア」

「えーと、クロウ、よろしく…?」

先輩にタメ口という、養成所では有り得ない状況にためらうルシアだったが、直々のお願いに従うしかなかった。

「うん、よろしく。また明日ね。えーっと、寝坊してたら起こしに来てね。」

普段から朝が弱いんだ、と付け加えてクロウは自室に入っていく。まだ昼過ぎだと言うのにもう寝るのだろうか。




翌朝。案の定、クロウはあれ以来出てこなかった。夕飯の時も全く顔を出さなかった。

「やっぱり朝弱いんだ…。」

普段から朝が遅いと思っていたのだが、今日は格段に遅かった。さすがに起こさないと間に合わない、そう思ったルシアはクロウの部屋に向かった。

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