《MUMEI》

とりあえず、クロウの部屋のドアをノックする。反応はない。「はいるよ」と声をかけてから中に入る。


部屋には作業台と思われる台と、その周辺に散らばったややこしそうな工具。本棚には楽譜らしき表紙の本がたくさん並んでいた。竪琴がいくつも並んでいる中、ベッドには掛け布団を抱き枕にしてすやすやと眠るクロウがいた。


「おーい、起きて。そろそろ用意しないと遅くなるよ。」

ゆさゆさとクロウを揺する。んー、と反応するものの起きない。こうなると最終手段だ。思いっきり掛け布団を引き剥がす。

これで起きると油断したルシアはクロウに引っ張られ、今度は自分が抱き枕にされた。

「起きてってば!!」

クロウの頬を思いっきりつねる。さすがのクロウもやっと起きた。

「いたっ…、!!?うわっ、ルシア!?え、あっ、ごめんっ!」

この様なことはよくあったようで、すぐに現状を理解したようだ。慌ててルシアを解放し、謝罪する。

「大丈夫。もう時間だし、早く来てね。」

食堂で待ってる、と残しルシアは部屋をあとにする。残されたクロウは恥ずかしそうにしながら急いで準備をするのだった。




クロウが食堂に現れたのはそれから5分後のことだった。慌てていたようで髪がまだ跳ねている。

「簡単なものしかできないけど。」

ルシアはトーストとハムエッグを出した。料理する機会はあまりない寮生活だったため、これが精一杯なのだった。

「ありがとう!」

目を輝かせ、どんどん食べ進めていく。クロウは昨日の昼から何も食べていない。ルシアは食べずに行くのは辛いだろうと考え、簡単な食事をつくったのだ。

「さっきはごめんね、助かったよ。」




食事を済ませたクロウとルシアは小型艇の格納庫へ移動する。ルシアには操縦技術がないため、必然的にクロウが操縦することになる。

「じゃあ、行くよ。」

2人を乗せた小型艇は空に飛び出していく。ルシアにとって初めての本格的な仕事が始まる。



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