《MUMEI》

マニエッサ群島に着陸した。住民たちはルシアやクロウを手厚く出迎えた。なにせ群島の上に竜の群れが現れてから、飛行船は飛べずに困り果てていたという。

「さっすがフェッセン征空団!」
「本当に助かったよ!」

広場に住民たちが集まって、パーティーがひらかれた。クロウはそのような賞賛されるといったことに慣れていないようで、一団の隅で竪琴を弾き、住民たちに聞かせていた。ルシアもまた、クロウの隣で竪琴を聞いていた。

セルエルとフェルエルは騎士団のことを話しているようだ。アルギエルは子供を抱えながら飛んで、子供たちを喜ばせている。ぶっきらぼうにみえて、案外面倒見がいいのかもしれない。



夜遅くまで行われたお祭り騒ぎのお陰で、またクロウは昼前になっても起きてこなかった。

「…すごく嫌な予感がする。」

嫌な予感は的中してしまった。宿の部屋は別々だったので、朝早くには起こさなかったが、この時間になれば話は別だ。

まず部屋のドアをノックする。どうせ聞こえていないだろうが、ルシアの一応の礼儀だ。中では、クロウが布団を抱えて寝ていた。

「起きてよ。」

ぽんぽんと肩を叩くと、うっすらと目を開ける。ルシアの顔を見ると笑みをこぼす。今回は大丈夫だ、と安心したルシアは、また隙を突かれた。今度はルシアを布団に入れ、一緒に二度寝しようとしたのだ。

「本当に寝起き悪いね……えいっ」

手を伸ばし、満足そうに眠るクロウの頬をつねった。飛び起きたクロウは、土下座も同然に平謝り。そしてルシアも「気にしないで」と返している。どこかで見た光景である。

マニエッサ群島を離れ、フェッセン征空団の拠点へと帰る。船の中ではまだ同じ光景が繰り広げられていた。




無事にルシアたちが、フェッセン征空団の本隊に合流した頃には、もうすでに空が暗くなり始めていた。この一件からというもの、クロウは普段よりルシアを構うようになったという。



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