《MUMEI》

ルシアはクレッセルに呼び出されたあと、クロウの部屋に遊びに来ていた。クロウの部屋は変わった楽譜や珍しい楽器が多く、ルシアも気に入っており、よく訪れていたのだ。

「ルシアは王都に何かあるのかい?」

クレッセルが参加するだろう、と聞いたことから何かあると考えたようだ。

「父親と、養成所の友達が。団長も知ってるからそれで…」

「なるほどね。」

クロウは楽譜を本棚にしまい、ベットに座るルシアの横に座った。特に話すこともなく、ルシアは楽譜を黙々と読み、それをクロウが横から覗き込むように見ていた。そして、暫くの沈黙の後、クロウが何かを思い出したように立ち上がる。

「髪、やっぱり邪魔だ。」

クロウは工具の中から短刀を取り出す。突然の行動に、ルシアは驚いた。

「えっ!?まさか、短刀で髪切るの!?」

驚くルシアとは対照的にクロウは何故驚くのかという顔だ。クロウは毎回こうなのだろう。

「…おかしい?」

やはり、短刀で切るつもりだったのだ。ルシアは無言で短刀を取り上げて、工具入れにしまう。代わりに鋏を取り出し、クロウを椅子に座らせた。周りに大きな紙を敷き、手慣れた様子で切っていく。

「慣れているんだね。」

「…まぁ、養成所では整髪屋に行く機会少ないからね。手先器用だったから、友達のもやってあげたことがあるよ。」

クロウは感心したように溜め息を漏らした。短刀でばっさりといった自分とは違うそんなことを思っているのだろう。



十数分たつと、クロウの髪は綺麗に切られていた。以前の鬱陶しささえ感じるような、長い髪も短くなり、金色の瞳がよく見えるようになった。

「ありがとう。ルシアは何でもできて、少し羨ましいな。」

短くなった髪を鏡で見ながら、満足そうに髪を撫でていた。

「んー、そうでもないよ。器用貧乏?クロウは竪琴一筋で…そっちの方がカッコいいと思うよ。」

クロウは片付けをしながらも、軽くなった髪を時折気にしているようだ。ルシアも手伝おうとしたが自分のことだから、と断られた。




ルシアはそれから暫くしてクロウの部屋を出た。夕飯に食堂へ顔を出したクロウの髪は、団内でも好評で、噂を聞きつけたリリーがルシアの部屋に押し入るのは翌日の話だ。



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