《MUMEI》

ルシアの料理の腕や器用なところは、クロウによって余すとこなく、伝わった。それからと言うもの、食事係は女性陣の仕事だったのに、ルシアが手伝ったり、団員たちの散髪までもルシアの仕事になりつつあった。



「ルシアくん、ごめんなぁ」

本心ではなさそうな、そんな雰囲気の話口調。クレッセルに翌日まで迫った、王都へ向けての最終打ち合わせに呼び出されていたのだ。

「いえ、嫌いじゃないので。」

「そう言ってくれると助かるわぁ〜」

打ち合わせも順調に進んだ。もともと話は聞いていたため、打ち合わせと言うよりも確認くらいなものだ。予定では王都についてからはクレッセル以外、基本自由行動だった。講演を聞くも良し、散策して回るも良し。

「ってわけで頼むな。船での食事はルシアくん任せやから…。」

今回の参加者は、クレッセル、クロウ、そしてルシアの3名。

「わかりました。また明日、よろしくお願いします。」

クレッセルはともかく、生活能力のなかったクロウは料理などできないだろう。もしやったとしたら、とんでもない料理ができそうだと、ルシアは思った。


クレッセルの部屋を出ると、コーネリアと遭遇した。彼女も団長に用事があるのだろう。

「団長をよろしく。悪い人じゃないけど、適当なところあるから。」

コーネリアはそれじゃ、と言って団長室へ入っていく。適当…それがクロウの様な過度なもので無いことを祈りつつ、コーネリアを見送った。ルシアはまだ、それが杞憂ではないことをまだ知らない。




ルシアの溜め息が、船内に狭い船内に響いく。王都へ向かう、小型船の中。操縦桿を握るクレッセルと、竪琴を触っているクロウ。船内には携行食の袋が散乱していた。

「ゴミはちゃんと捨ててくださいよ。」

ルシアが1つ1つ拾っては捨てていく。コーネリアが言っていた適当なところはこれだったのだ。

「んー、あぁ、ごめんな。いっつもコーネリアがやってくれるから、つい…。」

ルシアは改めて、誰も同行したがらない理由が分かった。2人して生活能力皆無だったのだ。食事も携行食1つで済ませようとするあたり、余程めんどくさがりでもあるのだろう。

「簡単なもの作るからそっち食べてください!」

イライラを隠しきれていないルシアが、簡易厨房へと消えていく。操縦桿を握るクレッセルが密かにガッツポーズしていたことなど、誰も知る由のないことだった。



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