《MUMEI》

ルシアがあり合わせで作った野菜炒めと、おにぎりを持って帰ってきた。待ちわびたように、クレッセルは操縦を停滞モードに切り替え、ルシアの作ったおにぎりにとびつく。

「いやぁ、流石やねぇ。」
「おいしい。」

2人はルシアの料理を絶賛しながら食べている。簡単な、誰でもできるものなのに、それを絶賛するあたり変わり者なのだろうか。




王都が見えてくる。一際大きな城と、その周りを囲むように城下町が作られている。どの町より賑わう、この国の象徴だ。

「団長、楽器店巡っていていいですよね?」

王都には珍しい楽器を揃えた店もたくさんあるだろう。クロウに取っては宝の山だ。それを分かっているクレッセルも、了承する。ルシアはクレッセルについて行って、トーラスやラフェルと会うつもりでいる。

「ルシアくんは一緒に行くもんな、な?」

「もちろんです。」

催促されなくとも、そのつもりだ。クレッセルの講演にはあまり興味がないが、ラフェルたちに会うには警備隊に行くしかない。



船着き場でクロウと別れた後、2人は王都警備隊の屋敷へと向かった。緊張しているのか、クレッセルの足取りは重い。

「はぁぁぁあ…ホンマ嫌や。」

いつもの飄々とした態度はどこへやら。病人のような顔になっている。警備隊に着いてからも、その様子は変わらない。昔、天才と言われていた、とコーネリアから聞いたことがある。しかしその様子は微塵もない。


しかし、その態度はあっという間に変貌する。




講演が始まった時だ。普段の何を考えているか分からない様な笑みは消え、凛とした団長の姿に変わっていた。『青天の策士』、かつてそう賞された空中戦の天才。その姿がそこにあった。

あまりの変貌っぷりに、ラフェルと共に聞いていたルシアも驚く。ラフェルも目を輝かせ、話を聞いている。彼の話の分野は空中戦だけに留まらず、地上戦や攻城戦といった、多分野に渡る講演だった。



「ルシアは凄い団長が居るんだな!」

講演が終わるとラフェルは興奮気味に言う。ルシアもまさかこんな人物とは思わず、驚いているのが事実だ。

「普段はこんな人じゃないんだけどね…」

「そうなのか?」

ラフェルに普段の様子を伝えると、信じられないといった表情になる。その後ラフェルと近況を話し合ったあと、トーラスたちも話をした。ラフェルは訓練に勤しんで、新入りとは思えない活躍をしているという。トーラスは相変わらず書類の滞納が激しいようだ。




町の宿屋でクロウと落ち合う。日が暮れていたが、クレッセルの操縦の腕があるので、飛行船を飛ばすことになった。早い王都との別れを惜しみつつ、飛行船は上昇していく。

『青天の策士』…かつてその二つ名で名を馳せた彼の、本来の姿を垣間見た…そんな一時だった。




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