《MUMEI》

「ルシア…くん?」

5階ではクロウがなんとか敵を全滅させ、壁に寄りかかり休んでいた。多少の出血も見られ、激戦だったことを物語っている。

2人が肩を貸そうとするが、それをアイゼルが制した。彼が手を向けると緑色の、優しい光がクロウを包む。クロウの傷はあっという間に傷は塞がり、すっかり動けるようになっていた。


クロウを伴い、階段を降りようとしたときだった。誰かの慟哭が聞こえるのだ。慌てて階段を駆け下りる。見えてきたのは、動かないユーリと、それを抱きしめるクレッセルだった。 




「何が兄貴やろなぁ、なに、が…天才や…」

大粒の涙がクレッセルの双眸から零れる。ユーリの息は途切れ途切れで、全身から血が溢れている。クレッセル自身も同じように傷だらけなのだが、こちらは浅かったようだ。

ルシアたちが駆け寄る。クレッセルは気付いたものの、それでも己への憤りがおさまる気配はない。満身創痍だったクレッセルは敵の攻撃に気付くのが、一瞬遅れたという。そしてその一瞬で、攻撃は避けられない所まできていた。ユーリはそれを身を挺して守ったのだ。


「なんで、な、んで自分なんよ…なぁ!」

今にも止まりそうな呼吸に、ユーリを抱きしめる力が強くなる。奥からゆっくりとアイゼルがやってきた。クレッセルとユーリを見比べ、大きく息を吐く。

「人は脆い…故に手を差し伸べたくなるのだろうな。」

クロウの時より激しい光がクレッセルたちを包む。光に包まれた2人の傷は癒え始め、ユーリの呼吸も落ち着きつつあった。クレッセルは飲み込めずにいるようで、呆然としている。

「その者はもう大丈夫だ。」

アイゼルは他の階が気になると言うので、セルエルとアルギエルを伴い、下に向かう階段へと向かって行く。

「…あ、ありがとう…ありがとうございましたっ!」

我に返ったクレッセルが慌ててその背に礼を言う。天界の王は一瞬歩みを止めたが、また歩き出し、とうとう下層に下りていってしまった。



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