《MUMEI》
後編です。
小夜子は、マラソン選手のようにビルとビルの間を走った。そして、やっと病院にたどり着いた。淳はすぐに延命措置をされたが、まにあわず、数時間後に死亡した。診断名を下されることはなかった。理由は、淳が、もし助かっても、経済的に、薬を買いにいけないだろうから、というものだった。
「どうして私たちばかりこんなに不幸なのよ!」
小夜子は兄の遺体に顔をつけてないた。
「放置したご家族も悪いんでしょうが。」
と、女医がいやみっぽく言った。小夜子はそれを聞いて、ある感情がわいた。それは、走りながら感じていた、感情とは、全く別のものだった。
「そうですか。私のせいにそんなにしたいんですか。きっと、私が能力がないって知っていらっしゃるから言えるんですね。じゃあ、私、一大事業に取り組みますから。」
小夜子は兄の冷たいてをしっかりと握りしめた。
「早く帰っていただけますか?次の患者さんもいますから。こちらは、忙しいんですよ。」
「ええ、わかりました!いまよりもっと忙しくなる筈ですから!」
小夜子は病院を飛び出した。そのあとの彼女の行方は知らない。母と共にどこかにいってしまったのか?数日後、彼女が暮らしていたマンションが、経営破綻から取り壊されることになり、全員立ち退くことになった。
空き家になったマンションに、土地家屋調査士が派遣されたが、彼女が暮らしていた痕跡はなかった。ただ、隣の、男性が住んでいた部屋が、バールで鍵を壊されており、土間に血痕があることを除いては。

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