《MUMEI》

王都近郊の村にフェッセン征空団の船があった。暗闇に浮かぶ巨船のシルエット。そこに1人の影がある。アイゼル・ゴッテス、天界の王…絶対的な力を持ち、ユーリを救ったその人だ。

他の人々も、さらにはルシアですら深い眠りの最中だ。アイゼルは船の上で夜風に当たっていた。空には無数の星々、雲一つない見事な星空。それを悲しそうに見つめている。アイゼルは昔のことを思い浮かべていた。遙か昔、未熟者だった頃に仕えた召喚士のことを。



現在と違い、まだ召喚士の黎明期だった頃。アイゼル自身もまだ、最上級には程遠いものであった。初めて仕えた召喚士は明るく気さくで、時々無鉄砲な所もあるが立派な人物。アイゼルもまた彼を慕い、尽くしていた。そんなある日、悲劇が訪れる。

モンスターの咆哮。アイゼルが召喚された時には、既に劣勢。彼は瀕死ながら最期の力を使い、アイゼルを召喚したのだった。モンスターをなぎ倒し、彼に駆け寄った時にはもう手遅れで、現在程の魔力も持たなかったアイゼルは、彼を救うことは出来なかった。



その出来事が起きたのは、今のような満天の星空だった。星空の下で彼は満足そうに笑い、逝ってしまった。アイゼルは自分の無力さを憎み、必死に特訓して、溢れんばかりの魔力を得た。彼が命を懸けて守ろうとした人々を、守るために。

「またこの世界に来ることができたぞ。貴方が守ろうとした世界…人々を、また…守れるのだな。」

再びこちらの世界にくる喜びを独り、呟く。誰にも届くことはない、その言葉は、夜風の音にかき消される。






「今の主人は本当に貴方に似ている…故に危うくて心配にもなる。……もう目の前で主人を死なせまい。」

誓いにも似たその言葉は夜の空に消えていく。




白き二対の翼は絶対的な天界の強者の証。しかしそのアイゼルの心の底に、仕舞われたこの話をルシア達が知るのは、まだ先の話。

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