《MUMEI》
召喚士ルシアと空への誘い
クレッセル率いる征空団は今日も空を駆けていた。各地に分散していたものの、空を守るという意志に変わりはない。



ルシアも船の操縦士としての特訓をしつつ、召喚士としての仕事をこなしていた。今回はユーリの操縦の元、盗賊団アジトの跡地に蔓延るモンスターの討伐任務を受けていた。数年前、付近の村や街道を荒らしていた盗賊団があり、そのアジトをモンスターの群れが襲ったという。盗賊団にはまだ見習いの召喚士が1人いただけで、団員は散り散りに。付近の住民が、盗賊団壊滅を喜んだのも束の間、今度はモンスターに悩まされる日々が始まった。付近の傭兵団が護衛任務をしてくれていたが、このままではいけないと決心した住民たちに依頼されたのだ。


「今回のモンスターはウルフの群れだって。早く片づくといいね。」

柔らかな物腰の青年、『青天の策士』と呼ばれた兄を支えるユーリだ。操縦をしながらも至って余裕を見せている。廃要塞の塔での一件以来、過保護を爆発させたクレッセルの命令により、ユーリとルシアの合同任務が増えていた。ルシアとアイゼルを信頼してのことだろうが、最上級でもアイゼル程の召喚となると疲労は激しく、滅多に召喚出来るものではない。勝手にアイゼルが来ることはあったが、ルシア自身が呼び出すことは少なかった。

「…早く帰らないと心配されますからね。」

苦笑混じりでルシアが答える。あの一件があってからというもの、団全体が過保護になったように感じていた。戦っているのが召喚獣とはいえ、最前線にいることに変わりはない。万が一のことは皆、覚悟の上だったが、いざ自分の仲間がとなると動揺したようだ。ルシアも勿論、息が絶えかけたユーリを見たときのショックは大きかったし、ラフェルですらその後の経過を心配して、手紙を寄越す程だった。

「あの時は本当に悪いことしたと思うよ…。とっさのことで…ね。」

勝手に体が動いていたんだ、そうユーリは語る。ユーリが庇わなければ、クレッセルが無事ではなかっただろう。その事もあり、きつくは咎められないのが皆、もどかしかった。




船の高度を下げ、目的の跡地近くの開けた所に船を止める。船を降りたルシアたちは、アジトの近くに居る少年を見つけた。この辺の住民たちは護衛もつけず、1人でいることはないはずだ。しかもルシアと同年代と見える小さな少年が、たった1人で。



廃れたアジトと少年。その関係を知るのは先の話。

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