《MUMEI》

困り果てている彩原に事情を聞いた。


「なんで誰もいないんだ?彩原、理由を知ってるか?」


「ご、ごめん……俺も分かんない。トイレから戻ってきたら皆いなくなってて……」


まさかボイコット?なんで?


放心状態の私と泣きそうになってる彩原だけが取り残された教室。多少困惑したが、あまり心にダメージはなかった。昔、似たようなことがあったからかな。



小学生のとき、ピアノのコンクールがあった。親に強制的にやらされてたからあまり本気で取り組むことはなかったけど、コンクールで優勝したら習い事のピアノをやめても良いって言われたから嫌々出場したんだ。


でもどういうわけか、コンクールはソロではなく二人で演奏するものだった。親が相手の子を選んでくれたんだけど、その子は脳内花畑で現実を見てない夢に一直線な馬鹿な女の子だったから当時は一緒にいるだけでイライラしてた。


相手がしつこく私に声をかけるもんだから私もつい話してしまったのだけど、何気なく発した一言でわけのわからないことを喚きながらコンクール会場から出ていった。


もちろんコンクールは出場できなくて、私もそのあとの別のコンクールで優勝するまではピアノを止めれなかった。



なんか、似てるよな。この状況。



私、何かおかしなこと言ったのかな。そのせいで皆いなくなったのかな。


「……なぁ、彩原」


「ああ、うん、なんとかしなきゃね……でも俺、午後は行けないし……」


「僕、また何かやらかした?」


「うん、でもなんとか頼んでみようかな……ってえええ!?何?橘が何かしたの?」


「いや、昔から僕が何か言うと周りから人がいなくなるから」


至って真面目に考える私を見て、しばし黙考したあと。


「……大変言いづらいんだけど、橘の言葉はちょっとキツいから、それで思うところがあってこんな事態になったのかも……」


と、何気に傷つくお言葉を頂戴してしまった。


キツい言い方になってるのは自覚はある。……直したほうが良いかな。


「ゴメン、橘……なんか、ショック受けてる?」


「……いや、今はそんなことより皆がどこに行ったか考えないと」


無理矢理気持ちを切り替えて心の傷を彩原に悟られないようにした。


「普通に考えたら家かゲーセンだと思うよ」


「?家は分かるがなんでゲームセンターなんだ?」


「吉村と赤坂のサボりスポットだもん。皆で屯してる可能性があるよ」


「ほぉー……ときどき授業にいないときはゲーセンに逃げ込んでたってわけか」


いいな。私もサボりた……じゃない。皆を連れ戻さないと。


己の欲望を抑えて本来の目的を遂行しにゲーセンへ直行した。

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